第32話 明日が来れば(1)
*
実家に持ち帰る荷物と言えば、小さな手鞄一つに収まるくらい。
「せっかくなのだけど……この鞄(皮ベルト張りの立派な箱のようなもの)は少し、大き過ぎるわ」
「あらっ、私が荷造りをいたしますから!リリアナ様は、何もなさらなくてもよろしいのですよ?!」
寝室で身の回りの物を整理していた私に、ユリスが慌てたふうに駆け寄った。
私の涙を見兼ね、出直して氷水とタオルを持って来てくれたのだ。
「自分の荷物ですから、自分で詰めるわ。私が禁断の場所に立ち入ったりしたから、あなたにまで気を遣わせてしまうわね」
「私のことなど、お気になさらないでくださいませ。さあさ、こちらを……どうぞお目元に」
氷水で絞ったタオルが手渡される。
火照った目蓋にひんやりとした心地良さ……ユリスの心遣いに、今日までどれほど助けられたことか。
「あら——」
ユリスはスカスカの四角い鞄を見て、
「お召し物だけでも一杯になりそうですね。もう一つ持って参りましょう」
「いっぱいになるもなにも、衣服はお借りしていただけで、私のものじゃないもの……」
そんなふうに仰らないでください、と言って微笑むユリス。
涙が止まらないのは……ユリスという名の初めての『友達』と、別れるのが辛いからに違いない。(きっとそう。)
なのに——ユリスの様子は、いつもと少しも変わらない。
私の一方的な『友情』だったのかしら——って、虚しさのようなものを感じてしまうのが切なかった。
「ユリス、私ね。あなたと出逢えて……お友達になれて、嬉しかったのよ。本当に……有難う……私の、お友達になってくれて」
「リリアナ様ったら。今更あらたまって、何を仰るのです?さあさ、準備を急ぎましょう。ご出発は明日の朝ですよっ」
ねえ、ユリス。
あなたはどうして、そんなふうに笑っていられるの?
やっぱり私の、一方的な感情だったの……。
冷たいタオルで鎮静していた目頭がまた熱くなってしまう。泣き方さえも、お母様が亡くなってから忘れていたはずなのに——。
「あらあら……これ以上お気を落とさないでくださいませ。明日になれば、きっと全て忘れられます。だから涙はそろそろ、お
ユリスったら何を言うの。
白椿城を離れたって、ここでのこと……忘れられるはずがないじゃないっ。
「そのご様子は、やはり……『
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