第28話 棘(2)


(1ー続)



「——は消えましたか」


その言葉に、私の背筋が凍りつく。


「公爵にさらすわけにはいきません。自然治癒など埒があかない、私が専門の医師を手配致しましょう」


一気に寒気がして唇が震え、冷たい汗が背中を伝い落ちた。


どうして———…。


リュシアンが、どうして。


「……余計な、事を……しないでください……っ」


リュシアンに背中を向けたまま叫んでいた。血の気を失った唇の震えが止まらない。


「どうして……私のあざの事を、あなたが……?」


振り返ってリュシアンを見るのが怖い。背を向けたままでしか、言葉が出てこない。肩を震わせる私を、いったいどんな顔をして見ているのだろう?


「エレノア様なら何も問題は無かったのです。だがやってきたのはあなただ。ランカスター公爵家に嫁ぐ者として相応しい人間か、勘査かんさする必要があった」


「私はっ……ディートフリート様の婚約者ではありません。なのにまで調べ上げるなんて……酷いわ」


「前にも言った筈です。公爵があなたをどう扱おうと、我等にとってあなたは公爵の婚約者だと」


言葉だけのやり取りに耐えられなくなった私は振り返り、リュシアンを見据えた。


「ディートフリート様も……ご存知なのですか?私の……痣の、こと」


リュシアンの表情は少しも変わらない。私を嫌悪する眼差しはいつだって鋭く、私の心を刺す。


ややあって、リュシアンが呟くように言った。


「——勿論」



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