第26話 *ディートフリート視点*
*
「綺麗だ」と言ったのは、秋色に揺れる茶葉の事ではない——。
茜色の髪を下ろした君に、単純に
テーブルの上には、取り残された二客のティーカップが静止画のように並んでいる。一客を持ち上げて、すっかり冷めてしまった液体を飲み干した。
私とともに育てた茶葉でお茶が飲めるのを、嬉しいと言って微笑んだ君は。
私のひと言で顔色を変えてしまった。
いつもと雰囲気が違うと言ったのがいけなかったのだろうか。君は血相を変え、慌てた風に部屋を出て行った。
「褒めたつもりだったが……」
後を追って扉を開けたが、部屋に戻ったのか既に君の姿は無かった。
私はどうしてこんなに口下手なんだろう——なぜもっと明確に、わかり易く言えないのだろうか。
吐息をひとつ吐きながら、居間を離れて寝室へと足を運び、寝具の下に
たいした労働はしていないのだが、昼間の太陽を浴びながら
君が言った通り、歪んだ体内時計が正常な形に戻ったのかも知れない。
——リリアナ。
もしも君の妹が寄越されていたら、私は復讐心に
ケグルルットの高慢な次女を妻に迎えて生涯を奪い、
そうと知りながら、行き場のない怒りを令嬢にぶつけようとしていた私は、なんと情けない男だろうか。
——リリアナ。
気付かせてくれたのは、君なんだ。
似た者同士だと言って私の風貌を嫌悪せず、優しさと笑顔を向けてくれたのは。
君は私に、髭を切らないのかと尋ねた。
私の無精を不快に思うのは正常な感覚だ。
戦場で伸びた髪と髭は私の顔を覆い、両親と妹を亡くした悲しみの表情を隠した。この髪は荒ぶる心を留め置く盾、髭は鎧——だがそんなものはもう、必要無いのかも知れない。
この城にもようやく、ランカスター家の闇を照らす『
——リリアナ。
君の隣に居たい。
ずっと、私のそばで笑っていて欲しい。
そう願ううちに—— ハーブの力も手伝ってか——いつの間にか私は、深い眠りに堕ちていた。
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