第25話 動揺…(2)
(1-続)
私を見つめる公爵と、また目が合ってしまった。
ティーカップの耳には、公爵の指先が添えられている。
…——飲んでくださったかしら?! 今、私と一緒に??
前髪の奥の澄んだ眼差し。緩やかに弧を描く唇は、微笑んでいるようにも見える。
「カモミールとバレリアンのお茶、気に入っていただけたみたいですね……!」
ウン?と今度は公爵が首を傾げて、ティーカップを持ち上げる。僅かに色付いたお茶を口に含めば、何度も小さくうなづいた。
「うむ……。良く出来ている。美味しいお茶だ」
ディートフリート様っ。
今のはもしや、ひとくち目でしょうか?!それでは、さっきの微笑みは……。
「リリアナ」
カチャリと音を立てて、公爵の手はティーカップをソーサーに戻す。
「……は、はいっ」
「君の方こそ、いつもと雰囲気が違っていないか?」
「髪を、下ろしているからでしょうか。ユリスが仕上げてくれたので」
「そうか」
と、公爵はまた口をつぐんでしまう。
さっきの微笑みは、私を笑ったのですね。
華やかな髪型なんて……。私には、やっぱり似合いませんよね。
ティーカップをソーサーに置けば、心の動揺のせいで力がこもり『ガチャン!』と大きな音を立ててしまった。
「あまり……遅くなってはいけませんし。そろそろ私、失礼いたしますね。おやすみなさいませ……」
私はそそくさと席を立つ。
何だろう、このいたたまれなさは。
公爵にちょっと笑われたくらいで——。
「リリアナ?!」
突然に退席するなんて、公爵に失礼かも知れない。だけど……。
「それではっ、良い夢を……ディートフリート様」
できる限り冷静さを装って、丁寧にお辞儀を済ませた私は扉を引いて廊下に出た。退室する間際さえ、公爵の顔色を見ることもできなかった。
私、どうしてこんなに動揺しているんだろう?!
公爵の美貌好きはユリスから知らされているし、惨めだと人に笑われる事なんて、これまでだって飽きるほどあったのに。
公爵の部屋の扉を背にして、私は立ち尽くしてしまう。
「着飾っても、おめかししても。綺麗じゃないって、意味がないって……わかっていたじゃない……っ」
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