第24話 動揺…(1)




顔が映り込むほどに磨かれた銀製のティーポットを持ち上げる。

熱い湯を注ぐと、紫色の繊細な螺旋模様が描かれたティーカップから、なんとも言えない良い香りが立ち始めた。


二つ並んだ湯の中で、淡いグリーンと黄色の葉が膨らみながら舞っている。秋色の、踊る小さな妖精みたいに。


「……キレイ、ですね」


公爵が何も言わないので、顔を上げてみれば——前髪の隙間から覗くエメラルドグリーンの瞳と目が合った。

てっきり公爵もティーカップを眺めていると思っていたので、私は慌てて視線をもとに戻す。


「少しのあいだ、蒸らしますね」


ティーポットをコトンとテーブルに置き、もう一度顔を上げれば、


「……ぁ」


また公爵と目が合った——もしかして。

ずっと、見られていた?!


私がじぃっと見返すと、今度は公爵が目瞬まばたきをしながら目を逸らせる。


「ああ。——…綺麗だ」


ティーカップを見下ろしながらポツリ……やっと言葉をくれた。

お髭のことで私が余計な発言をしてしまったので、気を悪くしたのかも知れない。


「ごめんなさい、私……」


「ン?」

「余計なことばかり」


「何がだ?」


「さっきもっ、お髭の事を……」

「髭のこと?」


まるで忘れていたみたいに、公爵は首を傾げる。そして「ああ、」と今度は思い出したように息を吐いた。


「髭の事だったな、これ以上切らないのかと。リリアナは……この髭がいやか?」


問いかけておきながら、自分で頭を振って否定する。


「好きなはずが、ないよな……」


公爵が手のひらで顔を覆いながら項垂うなだれるので、私は首を傾げてしまう。


「ディートフリート様?」

「なんでもない。蒸らし時間、そろそろいいんじゃないか」


そうでした、お茶を淹れに来たのでした。


「では、いただきましょう」


ハーブを育てたのは初めてだけれど、頼れるがいてくれたお陰で、良い茶葉に仕上がった。


「ディートフリート様と育てた葉っぱで、ハーブティーをいただけるなんて。私、とっても嬉しいです」


目の前の狼公爵が、土に塗れながら間引きや水遣りを頑張ってくれた姿を思うと、思わず笑みがこぼれてしまう。

目を丸くしている公爵を横目に、ひとくち、ふたくち、ティーカップを口元に運んだ。


んーっ♡なかなか良い感じ!


公爵は……と見上げてみれば。


——ぇ???

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