第23話 公爵の恋人(2)


(1-続)


驚きのあまり身を乗り出してしまった。

ボーボーザンバラ、ボサボサ狼公爵の、恋人っっ??!!


「この国の第一王女、イレーヌ・マキシミリアーノ・レイゼルフォン・アルカディオ様です。もう何年も前に、他国の王族に嫁がれましたが」


だっ、第一王女様ですって——!!??


「あ、あ、あの、第一王女様?!アルカディオの輝宝っ、美貌の女神アルジルの再来と謳われる、あのイレーヌ王女様が……、」


——狼公爵の、もと恋人っっっ。


「しょ……衝撃、です……」


片想いではなくて、恋人??

私の身近なカジモドは、その恋を叶えていた!!


公爵とは似たもの同士だと思って、勝手な親近感を積み上げていたのだけれど……一気に崩されてしまいました。


「ディートフリート様は、そ……相当な美貌好きなのですね??」


そして規格外の第一王女様のお好みは、やはり(←狼公爵)だったっ。


「ですから。私たちも頑張りましょう、リリアナ様!」


ユリスはせっせと私の髪を巻いていますが。

もはや——そんな美貌好きを前にして、美貌の「び」の字とも無縁の私のお洒落など、何の意味も持たないような気がしてきました……。





「——リリアナか?」


公爵の部屋を訪ねるのは、いつぞやのハーブティー以来。

重そうな両開きの扉の片方を開けた公爵は、湯浴みあとなのかとしていた。


「ディートフリート様……?何だかいつもと、雰囲気が」


ああ……と、顔を上げた公爵が、指先を頬に持って行く。


「伸びすぎたから、少し切ったのだ」

「へ……」


お髭、ほとんど変わっていませんがっっ。


「それ以上は切らないのですか?」


と言ってしまって後悔する、私ったらまた余計な事を!


「……」


案の定、公爵はだまってしまった。


「ぁ、いえ!何でもありません。持って参りましたよ……っ。カモミールとバレリアンのお茶です」


私の両手で支えられた銀のトレイを一瞥し、公爵は扉を腕で押さえつけ、私を部屋の中へと導いた。


「そうか……まぁ、入れ」


まだ濡れ髪の公爵から、柔らかな石鹸の香りがする。



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