第21話 *ディートフリート視点(2)*
*
リリアナ・ケグルルットは、
『
もっと落ち込んでも良いものを、むしろ日増しに
「——リリアナ様?!」
「リリアナ様……っっ」
回廊を歩けば彼女を呼ぶ声が聞こえて来る。回廊だけではない、どこに居てもだ。
バタバタと人の気配がしたかと思えば、リリアナが数名のメイドを連れている。そこに他のメイドも合流すれば、リリアナを中心とした一つの“太陽“が仕上がって、明るい陽光を周囲に振り撒くのだ。
「ぁ……、ディートフリート様っっ」
回廊の端に私の姿を認めたリリアナが、他のメイドを待たせて駆け寄った。
「昨日は楽しかったですね!」
「楽しかったのか?たかが一匹のミミズに縮み上がっていたのは、誰だったかな」
「それは……私、ですけれど……恥ずかしいので、もう忘れてください」
私が揶揄うと、リリアナは頬を赤くしてむくれる、まるで艶やかに熟れた林檎だ。
「それよりもっ。ディートフリート様が昨日抜いてくださった雑草、よもぎだったんです。せっかくのよもぎなので、私、パン生地に練り込んでみたんです。今夜の夕食に出しますから、食べてみてくださいね??お味はちょっと風変わりですが……体に良いものなので……ディートフリート様にも、食べていただきたくて」
リリアナは
「今日も厨房に入ったのか?」
「はい……いけませんでしたか?」
特に禁止している訳ではないが、毎日のように厨房で何か作っている様子なので気掛かってしまう——…
「いや、その……慣れない料理などをして、」
君が怪我をしないかと、心配で。
ついこの間も、
だが素直にそれを言えない自分がいる。
「——料理人たちの仕事の邪魔になっているのではないか」
リリアナは、はっと顔を上げた。
「確かに、そう……かも知れません。私ったら、皆さんのご迷惑を考えずに……。ディートフリート様に言われなければ、気が付きませんでした」
「あ、いや……迷惑と、までは」
「明日からは、お料理の邪魔にならないように、厨房が空いている時間帯を聞いてからにしますねっ」
叱られても、リリアナはこうして首を傾けて微笑むのだから、怒る気持ちも失せてしまう。
「みんなを待たせているので、もう行きますね。そうだ、これからみんなでハーブの収穫なのですが、ディートフリート様もご一緒にいかがですか?」
「もう収穫ができるのか」
「はいっ!立派に育ちましたから……。ディートフリート様が、ご一緒にお世話くださったハーブたちです」
書類を仕上げねばならないと断ったが、リリアナは祈るように合わせた手のひらを唇に寄せ、嬉々として言う。
「いよいよ、今夜です。お部屋に伺いますから、楽しみにしていてくださいね!」
瞳と同じ色の髪を背中に揺らして、彼女はメイドたちの元へと走る——そして光を戻された太陽は、また茜色の陽光を輝かせるのだ。
リリアナの珍しい髪色と瞳の彩色は、彼女の父親と妹のそれらとは異なる。
他界した母譲りなのかと問えば、突然の変異によるものだと言い、人から忌み嫌われる色だと呟いて、哀しげに笑っていた。
太陽が去ったあと、私のいる場所は途端に冷たい静けさに包まれる。
いつの日か——…私がもう少し、素直になれたら。
「リリアナに伝えよう」
君の髪と瞳の色は、とても綺麗だと。
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