第17話 恋バナ(2)


(1-続)


「んー、さっぱりわからないわ……」

「リリアナ様も、いつか旦那様を好きになればわかります!」


そうか。表向きは私、公爵の婚約者だった。


「好きに、なれるのかな……。私も人生に一度くらいは、誰かを心から愛してみたいけれど」

「ご不安になられるのは当然です。旦那様、あのご容貌ですものね。お城に来られてから、旦那様とはゆっくりお話をなさいましたか?」


公爵と話すも何も、このでお互いを分かり合えるのかしら。そもそも今日の事だって。

使われてない畑を少しお借りしたくらいで、なにもあんなに怒らなくてもっ。老後にあそこで盆栽でも育てるおつもりかしら。


「ユリスがもし私の立場なら、二十歳はたち以上も歳の離れた人との結婚を、すぐに受け入れられますか? 貴族同士の結婚で、歳の差のことなんか気にしていられないのかも知れないけれど」


二十歳はたち以上の、歳の差??」

「だってディートフリート様は、四十歳代なのでしょう?」


「いいえ、旦那様は先月、二十六歳になられたばかりです」


な、ん、ですと!?


「……四十代にしては、声が若いって思ってました……」

「リリアナ様ったら!ご自分の夫になる方ですよ?勘違いにも程がありますっ」


——ユリスが笑った。愛らしい笑顔に笑窪が映える。


「ああ、やっと笑ってくれたわね、ユリス!」

「 …ぇ 」

「私がここに来た日から、ずっと沈んだ顔をしていたから。何か楽しいお話を一緒にしてみようって思ったの」


「沈んだ顔……でも、それはっ」


「わかってる。『恋人』のことが心配だったのでしょう?最初はね、忌み子の私の専属になったのが嫌なのかなって思っていたの」


「ゎ、私っ、リリアナ様をそんなふうに思った事はありません!」


「無理をしなくてもいいのよ?もう慣れているから。私、お城から出られないし、話し相手もいないから。だから……ユリス。私のメイドではなく、お友達になってもらえないかしら……。こんな事を言ったら、あなたが困るのはわかってる。でもっ……」


「リリアナ様」


うつむいた私の手を、今度は微笑んだユリスがそっと握ってくれる。


「わかりました。専属メイドとしての私の立場は変わりませんが……私もリリアナ様ともっとお話がしてみたいです。また一緒に『恋バナ』をしませんか? リリアナ様の『恋』を、私が全力で応援サポートいたします!」


「私の、恋??」



トントン——…!



突然ノックの音がした。扉の向こう側からくぐもった声がする。


「夜分に失礼いたします、ラミアでございます。旦那様がお呼びでございます」


和やかだった空気が瞬時に冷たく張り詰めた。

こんな時間に、何だろう。


「噂をすれば……! リリアナ様っ、旦那様と仲直りをするチャンスかも知れません」


ユリスは顔を熱らせているけれど。

背中に悪寒が走る——。


私を睨みつけた公爵の、あの時の瞳が目の奥に浮かんで心がぎゅっと縮んだ。



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