第16話 恋バナ(1)
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理不尽な理由では叱らないと言った公爵を、私はどうしてあんなに怒らせてしまったのだろう——。
罰として三日間、部屋を出ることを禁じられてしまった。
「申し訳ございません……!私の……せいです……」
何を言っても顔を上げてくれないユリスさんに、すっかり困り果ててしまう。
「だから違うの。私が許可もなく菜園を掘って、植物を育てようとしたから。ユリスさんはぜんぜん関係ないのよ。だからお願い、もう謝らないで?」
「ご迷惑をおかけしておいて申し上げにくいのですが——。リリアナ様、私のことはユリスとお呼びください。私はあなたのメイドでございます。メイド長のラミアにも、叱られてしまいますので……」
あの意地悪なラミアね?
私も叱られそう——リュシアンに。
「あなたに迷惑がかかってしまうなら、これから気を付けますから……ユリスっ」
実家で私を『お嬢様』と呼んでいた人たちにも、当たり前のように敬称を付けていた。
使用人を使用人扱いすることには慣れていない。肝が据わっているだなんて、大きなことを言ったけれど。昔から人を使うとか、そういう事はからきしダメなのだ。
「それよりも、恋人のご様子は?事情を聞いてから、私もずっと気になっていたの」
「屋根から落ちたと知って案じたのですが、奇跡的にかすり傷で済んだと」
「そうなの!?ああ、良かった……っっ」
突然に抱きついた私に、ユリスが動揺しているのがわかる。けれど心底ホッとしたのだから、このハグは許してもらおう。
「あなたの顔が見られて、お相手の方もご安心なさったでしょうね」
「はい……。こうして平常心で職務に就けるのは、リリアナ様のおかげです。本当に……心から感謝しています」
私はユリスの身体を離し、ずっとあたためて来た想いを打ち明けることにした。
「ねぇ、ユリス。お願いがあるのだけど」
「私にできる事なら何なりと、お申し付けくださいませ」
私の言葉を聞いて、ユリスは何て言うかしら……。
「もし良かったら、私のお友達になってくださらない?そしてこうやって時間を持て余している私に、あなたの『恋』のお話を聞かせてくれないかしら」
思いがけない言葉を投げられ、困ってしまったのだろう。ユリスは訝しげな顔をする。
「わっ、私ね……今まで『恋人』とかいた事がないし、男の人を好きになった事もなくて。『恋をする』ってどんな気持ち……?恋愛の先輩として、ユリスのお話を聞いてみたいの」
「は……い、それは、構いませんが。でも私の話なんて、つまらないだけです。リリアナ様のご参考になるかどうか」
「いいから教えて??お願いっ。人を『好き』になると、どうなるの?その好きっていう気持ちは、お友達を好きな気持ちとどう違うの」
「そう、ですね……。恋をすると、胸が締め付けられるみたいに痛みます」
「痛いって、どんなふうに?」
「刺すような痛みではなくて、何ていうか……キュンって」
「きゅん……」
「好きな人が他の女性と親しくしていたり、眠る前に好きな人の事を考えるだけでも、痛みます」
「恋って痛いのね」
「苦しくて、痛いです。でも、その痛みがいいんです。お友達相手には感じない痛みです」
苦しくて痛いのが、いい??
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