リリアナ・ケグルルット




———私は『忌み子』。


両親とは似ても似つかない。

忌み子と呼ばれるこの容姿のおかげで、普通に生きるだけでも肩身が狭いというのに。

大した取り柄も持たない、強いて言うならばお父様が国王陛下の遠縁に当たるという伯爵家の出自だけ。


だけど妹は違う。

その美貌を見そめられ、第三王子殿下の妃候補にも名が上がるほどの、私の自慢の可愛い妹。


「……この縁談。お姉様に涙をんでお譲りいたしますわ!」


豆鉄砲を喰らったような顔をする私を、青い瞳をきらめかせた妹のエレノアがぎゅうっと抱きしめた。


「だからお姉様。私の代わりに、幸せになってくださいねっ?」


エレノアの、サラサラと流れるような金糸の髪が目の前に揺れている。

その手があったか!と、先程から怖い顔をしていたお父様が心から安堵の笑みを浮かべ、胸を撫で下ろした。

ふたりは昔から、私の返事を聞く優しさなど持ち合わせてはいないのだ。


卓上には湯気を立てる紅茶と、銀箔で縁取られた書簡が一通置かれている。

エレノアがそれを乱雑に拾い上げ、声をあげて読み始めた。



『我ディートフリート・ランカスターは、ランカスター公爵家の名のもとに、ケグルルット伯爵令嬢、エレノア・ケグルルットを花嫁に所望する。』



エレノアは書簡の端をつまみ上げ、意地悪で冷たい視線を注ぎこむと、吐き捨てるように言った。



「あの『ウルフ公爵様』には、せいぜい忌み子のお姉様がお似合いよ!!」


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