第1話 白椿の城




一年を通じて純白の椿が咲き誇る美しい城は『白椿しろつばきの城』と呼ばれ、かつては平民も招かれる開かれた場所だったと聞いている。


当時の美しさが今も保たれているのに、門の外から垣間見える広大な庭園は閑散としていて、満開の椿たちさえもじっと息をひそめているようだ。


背高い鉄の門を見上げれば、白椿をいだく鷲の紋章がある——間違いない、ここはランカスター公爵家。


私は鉄錆色てつさびいろの前髪をかき揚げ、ふぅっと一息ついた。長い後ろ髪は頭のてっぺんにまとめてきたから、さほど乱れていないはずだ。

大通りで馬車を降りてから、荷物を持ったまま歩いて来たのだから。

汗だくは仕方がない……仕方がないけれど。


「この格好で、公爵様にお会いするのよね?」


くたびれたシャツに洗いざらしたロングスカート、これではまるで使用人。

だけど綺麗なよそ行きのしつらえなんて、用意してもらえなかったのだから仕方がない。


所望された妹のエレノアじゃなく、こんなみすぼらしい私がやって来たとなれば、間違いなく公爵は激怒する。

それでも公爵に対する不敬を問われないと言うのは、お父様が陛下と懇意の仲で、たいがいの身勝手は陛下の鶴の一声で許されてしまうからだろう。



そしてすぐに、私はに追い返される——。



周囲を見回してみても門番が見当たらないので、チャイムを押してみた。

力を込めてボタンを押しても、うんともすんとも言わず、これで押せているのかしらと不安になる。


「——ご心配なさらずとも、は守衛塔に届いております——お入りください」


どこからともなく声がして、ギギッと鈍い音をたてながら門扉が開いた。


守衛塔って? そんなものがあったのですか。

それにが、届いていたって……。


知らずに私、しつこく何度もチャイムのボタン、押してしまいましたっっ——。




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