第6話 初めての食事(3)




黒タキシードに蝶ネクタイを決め込んだ侍従が、美味しそうに湯気を立てたお皿を次々と運んでくる。


まともな食事なんて何年ぶりかしら。

亡くなる前にお母様から、テーブルマナーはしっかりと教わっている。

前菜の次は綺麗な朱赤のスープ……赤い色に近いから、素材はビーツだ。


「美味しいぃ!」


思わず出てしまった私の言葉に、狼公爵が顔を上げれば、お髭にスープが……!

こ、これは……っ、素直にお伝えするべきでしょうか??


「口に合ったのなら、良かった」


ダメだ……ビジュアル的におもしろい。笑っちゃいそう——っっっ!!


「あのぅ、、、おひげ、おひげ、にっ」


「髭がどうした?」

「おひげに、す、スープ、が」


はたと気が付いて、おもむろにナフキンで口元を拭く姿。そしてまたひどく照れていらっしゃる。


やっぱり見て見ぬふりをしたほうが、良かったでしょうか?!


人質の立場だといえ、狼公爵はこの白椿城の君主だ。恥ずかしいという気持ちになんか、させてはいけませんよね?


「あのっ、ディートフリート様」

どうにか話を逸らさなければ。


「……ところで私は、いつ牢屋に行けば……?」



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