第5話 初めての食事(2)
*
「——まともな格好をすれば、少しはまともに見えるものだな」
完璧な晩餐のお支度(首から上、以外は!)をされた狼公爵は、無精髭にシャンパングラスを傾けている。
「私の、事でしょうか……?」
「他に誰がいるんだ」
鉄錆色の髪は、ユリスさんが綺麗な夜会巻きにしてくれた。イブニングドレスなんてものを着たのはこの人生で初めてだ。
叱られなかった。
と言うか人質と食事をするなんて——狼公爵は、いったい何を考えているの?!
「こ……こんなに胸元を露出させたまま、お食事をいただくのでしょうか」
「ローブデコルテとはそういうものだろう。実家で晩餐の席を持たなかったのか?」
「それに……こんなドレスを着させていただいて、公爵閣下との晩餐に同席するだなんて」
「何か問題があるか」
「問題とか、そういうことでは、なくて」
———私はあなたの『人質』ですよ?!
「それに公爵閣下はやめろ。堅苦しくて息が詰まりそうだ」
「でも公爵様、私はっっ」
「公爵様もやめろ」
「それでは、旦那様」
「それは違うだろう……」
「——狼公爵様」
「は?」
いけない!
私っ、つい口を滑らせて……。
思い切り冷や汗をかいたけれど、狼公爵はポソッと長い指先で頬を搔き、
「名前で、呼べばいい」
かろうじて見える頬が赤くなって……もしかして、照れていらっしゃる??
「では……ディートフリート様で、良ろしいでしょうか?」
「ああ、それでいい」
獰猛な狼公爵などと呼ばれる人が、こんなふうに照れたそぶりを見せるのは意外だった。私がじっと見つめれば、公爵は口元に拳をあてて、ますます恥ずかしそうな顔をする。
(もしかして、あまり女性に慣れてらっしゃらないの?)
「ディートフリート様」
「……何だ」
「す、すみませんっ。もう一度呼んでみただけです」
大きな身体で、小さく戸惑っているのが面白い。
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