第7話 彼が笑えば……
笑いを取る立場が逆転、豪快に笑われてしまった。
というか怒りもしないで、声をあげて笑うなんて——私、そんなに可笑しなこと言ったでしょうか?!
「お前は何か、勘違いをしているようだな」
「へ……」
「私はお前を人質にすると言った。だが囚人にするとは言っていない。その意味の違いくらい、わかるだろう?」
「それは……わかります、けど……」
「だから牢になど行く必要はない。ただ自由は無いとも言ったはずだ。部屋から出ても良いが、絶対に足を踏み入れてはならない場所がある」
「行ってはいけない場所、でしょうか?」
「そうだ。明日城内を案内させるから、私の言い付けを忘れるな。これは命令だ」
*
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ちゃぽん……
広々としたお風呂にゆったりと浸かりながら、考えを巡らせる。
私は——そもそも、どうしてここに来たのだっけ?
狼公爵との縁談を嫌がったエレノアの、身代わりの花嫁として。
本来ならば花嫁候補として相応の扱いを受けても良いはずなのだから、ひとつひとつの物事を、こんなふうに気にする必要はないのかも知れないけれど……。
『忌み子』。
……私は、忌み子だ。
そもそも普通の人と同じような人生を歩めるとは思っていない。
だから家族からどんな酷い仕打ちを受けても、当然だと思って生きてきた。
狼公爵が私を『人質だ』と言った時だって、驚いたけれど大した違和感は感じなかった。
むしろ実家にいるよりも、人質としてここにいる方がずっといい。
「だって……美味しいお食事をいただいて……こんなにゆっくり、お風呂にまで入らせてもらえるなんて」
もうこれ以上、何を望む事があるでしょう?
「とにかく、お城を追い出されないようにしなければ……」
狼公爵は威圧感の鎧をまとっているけれど、笑うと少しだけ、彼の周りの空気が和らぐ。
そうだ……初めてお会いした時から、喉がずっと辛そうだった。
ジャバッと水音を立てながら急いで湯船を出る。
狼公爵は、もうお休みになったかしら。
こんな私をここに置いてくださるのだから——。
少しはそのご恩に報いたい。
遠慮がちにブザーを鳴らせば、すぐにユリスさんが来てくれた。
「こんな時間に申し訳ないのですが。お城の厨房を、お借りしても良いでしょうか……?」
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