第3話 リリアナのお部屋





開け放たれた扉の向こう側。

白とゴールドを基調とする広々とした部屋には、良家の令嬢ならば泣いて喜びそうな愛らしい家具やベッドがセンス良く配置されていた。


「こっ……こんな素敵なお部屋! 私が使わせていただいて、良いのでしょうか?!」


メイドが訝しげな顔をする。


「はい、それは……勿論でございます。リリアナ様は、旦那様のご婚約者でいらっしゃいますから」


そうか。

この人たちは私が狼公爵の『人質』になった事、まだ知らないのね。

メイドが着替えを持ってくると言うので、誰もいなくなった部屋でベッドのはじっこに少しだけ腰をかけた。


ビシッと敷かれた、皺一つない真っ白なシーツ。


「……汚さないようにしなくちゃ」


童話・美女と野獣に登場するベルは、野獣の人質として地下牢に幽閉された。

ここは『人質』の私なんかが眠れる場所じゃない。

きっとすぐに、私も屋根裏とか牢屋だかに移されるのだろう。



「牢屋からも、この綺麗な夕陽が見えるかしら……」



オレンジ色に染まった窓の外を眺めていると。

ノックの音がして、さっきとは違うメイドが二人のメイドを連れてやってきた。


(十八歳の私と同い年くらい、いいえ、もう少し上かしら?)


「ご挨拶が遅れまして申し訳ございません、リリアナ様。今日からからあなた様の専属メイドを務めさせていただきます、ユリスと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


「……へ?」


驚きのあまり変な声が出てしまった。

何ですと?!ここでは人質にも専属のメイドが付くのですか??


「リリアナ様、ご休憩は後ほどになさって。私たちがお手伝いいたしますから、晩餐のご準備を急ぎましょう。旦那様もお見えになるはずです」


耳をうたがった。


「ばっ……晩餐なんて私、何も聞いておりませんが?!」



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