第288話 後始末
288 後始末
1554年 5月 北条氏康
今川義元が織田信長に敗れたと言う一報は日本中に知れ渡った。武田六角上杉朝倉足利三好と名だたる大名は言わずもがな織田信長と言う英傑の存在を深く刻み込む事となった。
信長は勝ちを手に入れると気を緩める事なく今川勢力の追撃に入った。美濃や武田、六角方面への抑えはこちらに全て任せて信長は一心に三河の奥へ、遠江へと兵を進ませて行った。
史実と異なり、松平元康がいなくなったこの世界では織田信長は防波堤としての松平がいなくなった。
よって、できるだけ自身で実効支配できる土地を増やす事となった。
こちらとしても今川とは盟約を結んでいたこともあり、できるだけ手助けをしたかった。
しかし、こちらの介入など許さないかのように信長は一気に浜松湖前まで進軍してしまった。
それ以上に兵を進めることは難しく制圧した土地の慰撫に努めているようだが、これ以上時間が経過すればするほど今川の立場は苦しくなってしまうだろう。
そして、今目の前に今川勢力の外交官である寿桂尼殿と織田の使者である丹羽長秀殿が北条の城である小田原に集結していた。
「我々としては北条様の庇護下に置いてもらいたいとただその一心にございまする。」
そう主張するのは今川方である。
「此度の戦は我々が勝ちました。これ以上の侵攻への余力も残しておりまする。支援してもらうのは織田の方が合理的かと思いまするぞ?」
勝ち馬に乗れと言ってくるのは織田だ。
「はぁ、我々としては三国同盟を結んでいる今川殿、個人的に誼を結んでいる織田殿とどちらを選ぶと言う話もできかねますな。それに織田殿は自国の力で遠江まで制圧できております。これ以上の拡張は難しいのでは?」
織田としては落とし所を求めているはずだ。既に制圧している地域の権利と賠償金といったところか。
「我々ができるのは和睦の仲介程度にございまする。義兄殿からもそう言われているのではありませぬか?」
丹羽長秀は、一つため息をつく。
「そうでございまするな…。殿から聞いていたのでしょうか?」
「いえ、義兄殿ならこう言いそうだなと言う予想にございまするよ。では、条件について諸々詰めまするか。今川の要望としては北条に臣従する事でよろしいですな?」
寿桂尼が無表情で頷く。怒りを押し殺しているのか、ただ諦めているのかよく分からない。
「織田殿としては現状手に入れている浜名湖迄の領土の割譲でよろしいでしょうか?」
「はっ!」
「では、我々からの要望に御座いまするが元今川家臣で降伏したものの中で織田に付くのをよしとしなかったもの達を北条に送って頂きたい。これは事前に織田殿にも話していた事だ。それと、今川が北条に臣従する事の容認だな。いかに?」
丹羽殿はその流れがわかっていたかのように粛々と頭を下げ、寿桂尼殿もありがとうございますると頭を下げた。
これで全てが丸く?収まった。
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