第282話膠着

282 膠着


 1554年 4月 北条氏政


 「尾張の防衛はどうなっている?」


 側に控えていた竹中半兵衛に聞く。今は学校での勉強をわずか数ヶ月で終わらせて俺のそばで軍略方兼秘書の様な事をさせている。


 「はっ、光秀殿が上手く軍を固めて一度も進撃を許していないそうです。それと、風魔の調べによると義龍は領内を纏めるのに忙しくこちらのことはとりあえず放置するみたいにございまする。しかし、その一方で幕府に働きかけて一色の名を都合としている様でございまするな。」


 「そうか、それは放っておけ。幕府内部の官位については全く興味がないゆえな。それよりも道三殿達はこちらにいつ来るのだ?」


 「信長殿としては清洲や那古屋にいて欲しい様ですが、義龍様と戦うか北条に来て息子達を鍛えるかどちらかだと主張している様です。」


 「はっはっはっ、道三殿に義兄殿は振り回されておるのか!面白いな!」


 「笑い事ではございませぬが…。これで織田との関係がゴタゴタしたらどうするおつもりですか…。」


 「それはないな。義龍との戦いが終われば必ず道三殿を義兄は持て余す。寧ろ本心では早く北条へ行ってくれとさえ思っているだろうよ。名目上の美濃まとめ役としてどちらか片方だけを預かってもう片方を道三殿と共に北条で分家を建てさせたいとすら考えているのではないかな?」


 「言われてみれば確かにそうかも知れませぬな。要らぬお家騒動の元など入れませぬし。」


 「そういうことだな。織田と今川の動きは?」


 「はっ、今川は出陣の準備を終えて三河まで進出した様です。今は岡崎城で全軍を揃えています。それに対して織田殿は安城城に進出全軍を持って平野で合戦を行う様です。」


 半兵衛が手元の資料を読み込んでいる。


 「半兵衛ならばどうする?」


 「はっ、私でしたら桶狭間や植田山などの地理的優位の位置が取れる様に動き少しでも兵力の差を埋めて余った兵で四方から囲い込みます。そして正面は守りを固めさせて残りの三方向から槍や弓などを使ってジリジリと削りまする。相手の我慢が切れて他の方向を押しつぶそうとすればその隙をついて正面兵力が出ればよし、我慢するならばそのまま削り切ればよろしいかと。」


 「では、織田殿がどの様に戦をするか楽しみにするとしようではないか。」


 今回は観戦用として織田と今川両方に風魔のもの達を配置している。そして、それをしっかりとまとめて後世へと残そうと思う。

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