第278話
278
1553年8月 織田信長
「殿!こちらを!」
義弟とお市と護衛をつけて散策を楽しんでいたところ伝令の一人が文をもってきた。奪い取る様に受け取るとすぐさま中身を開く。
斎藤義龍家督を奪い取る。
斎藤道三は息子二人を連れ追手から逃れながら尾張の熱田へ逃走中。
「馬引け!軍の準備をして清洲に集めよ!美濃との国境の警戒を厚くせよ!」
お市が不安そうにこちらを見つめている。それに対して義弟殿はニコニコと俺の様子を嬉しそうに眺めている。此奴は時たまこの様に変な目でワシのことを見るが嫌な気分ではないな。
「頼む。那古屋で。」
義弟にはこれで充分に伝わるだろう。馬に乗るとすぐさまに清州へ向かって走らせる。さっさと義父殿を迎えに行かねば。ここで義龍と義元の2正面はマズい。早めに美濃を牽制しなければ義元との全面対決は難しくなる。クソが!
北条氏政
「さて、何か美味しい物でも食べて落ち着きましょうか。」
僅かばかり残された信長の護衛達を引き連れて不安そうにしているお市殿の手を取り風魔の店へと連れて行く。信長の護衛達に中を確認させてから入り北条でも作られている甘味を出して行く。お市殿は尾張ではまだあまり流通していない物があったりして顔を笑みに変えている。信長の護衛達はその様子を見てスッと頭を氏政に対して下げるが、気にするなと目線で返す。もう少し落ち着くまで待っておこう。
〜〜〜
「では、那古屋に向かいましょうか。義兄上の支配下とは言え野盗などが出る可能性はありまする。我々の兵も連れて送りたいと考えているのですがいかがでしょうか?」
「はっ、殿からは北条様が何かなされようとする時はできるだけ全て叶える様にと言われているので大丈夫です!よろしくお願い致しまする!」
…微妙な空気が北条の中で流れる。いやいやいや、流石に自分の支配地に味方とは言え別の軍を入れるのって普通ダメだろう…。こちらは100パー善意でやっているから別に問題ないのだがな。
「兵は300程にしておけば家臣の方々を刺激することもないでしょう。神輿はございますか?」
「はい、お市様がこちらに来られる時に使った神輿がまだありまする!」
「わかりました。お市殿の運び手と供回りは織田の方々に任せます。私たちは外側を囲う様にしてお守りいたします。」
「配慮ありがとうございます!では、部隊の指揮は伊豆守様にお任せいたしますのでどうぞよろしくお願いします!」
兵士はハキハキとした声で返事するが言ってる事は丸投げであった。いや、まあ、間違いではないんだけど。さて用意して向かうかと思っているとお市殿が袖を引っ張ってきた。
「よろしければお近くにいてくださいませんか?市は氏政様が近くに居なければ不安にございます…」
目を潤ませてこちらを見上げるお市殿を見たら何も言えなくなり俺と正信、政直、政豊はお市殿の神輿のそばで馬に乗る事になった。
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