第277話


 熱田城の広間では宴会の準備がされている。その待ち時間に別室に通された俺はお市殿との顔合わせをしていた。まだ6歳である彼女とは婚約者というよりも親戚の子供という感じで仲良くなったくらいだった。しかし、子供の頃から美人に育つとわかる彼女は確かに信長の妹なんだなとも思った。


 「義弟殿よ、どうだ俺の妹は?」


 信長がこれまた遠慮なく部屋の中に入ってくるとどかっと俺とお市殿の間くらいに座って会話に参加してくる。


 「お年の割にとても落ち着いておりますし、信長殿ににて顔立ちが整っているので大変美しくなるであろうなと思っておりますよ?」


 うむうむと手を組み頭を振る信長はやはり家族や身内に対して甘いただの男に見えるなと考えると少し笑えて来た。お市殿は兄ともよく話すのか信長との会話も楽しんでいる様だ。


 何を話していたのかや義弟はいい奴だろう?などと何故か信長が妹であるお市殿に対して俺を自慢しているのも意味不明で面白い。


 「へぇ!あの美味しいお菓子や、お料理なども氏政様が考えたものなのですか?」


 お市殿は普段から食べているカステラなどの甘いものや料理などの分かりやすい凄いものを生み出した事がわかると興味津々にこちらを見つめてきた。


 「はい、私には八幡様から頂いた知識がございますのでそれを広めただけに過ぎませぬよ。本当にすごいのは私の思いに応えて形にしてくれた職人達やそのために動いてくれた家臣達です。」


 これは本心だ。結局ほとんど、こういう物があるから作ってくれで丸投げだったしな。


 「お兄様とは全然違いますわね!お兄様ならいつもそうだろう!って自慢なさりますもの!」


 悪戯っぽい笑みを浮かべて信長の方をみてケラケラ笑っているのを見ていると落ち着いている面とこの様に子供っぽい面と兼ね合わせているのだと感じる。


 「おい!何をいうのだ!そもそも義弟殿が特別なだけだぞ!俺は普通だ!」


 「でもこの前も城を抜け出して城下町で食べ歩きをして丹羽殿に怒られておりましたよね?」


 「そ、それはだな…」


 こうして三人で他愛もない時間を過ごしてこの日は過ぎていった。


〜〜〜


 1553年 8月 斎藤道三


 「はっ!やられたわ!彼奴がここまでやる奴だとは思わんだな!」


 道三は馬を走らせ尾張の熱田へと向かっていた。先行させた家臣によると婿殿は熱田城にいるらしい。


 「孫四郎と喜平次を絶対に守り抜け!行くぞ!」


 利三が最後の奉公という事で義龍の計画について情報を打ち明けてくれた。義龍の元には旧土岐家臣やワシに対して反抗するもの達が集まり今回の尾張行きの間に乗っ取りを企んでいるという事。その際に孫四郎と喜平次を殺すために追っ手を放っているという事だった。

 利三はワシについてくれるという事だが一族の連中は多分義龍へと付くだろうとも言っている。明智などワシよりの重臣達は既に攻め立てられるとの事であり、早く婿殿に助けを求めねばならない。ワシの家臣達が既に攻められている上に追手まで来ているならば、喜平次と孫四郎がいる事からも領内での義龍討伐は難しい事になる。婿殿に借りを作りたくなかったが良い機会だな、たっぷりと褒美を貰った上で美濃をくれてやるとするか。

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