第272話軍神加入

272

 1552年 竹中重虎


 「はっ、勿論にございまする。その上でこの書状を読んで頂きたいとの事です。」


 男は胸元から書状を取り出して先ほどと同じ手順を踏んで重虎殿に渡す。そこに書かれていたのは「もっと詳しい内容が知りたいと思うならば我が領土の軍学校に人を派遣するなり、お主自身が来ると良い。俺ともっと面白いことがしたい、自分の力を試したい、誰もが飢えずに未来に希望を持てる世の中を作りたいと思うならば俺の元へ来い。その力を俺が使ってやる」と書いてあった。


 重虎の手は震えていた。自分が初めて知った時から尊敬しており、いつかはあい見えてみたいと思っていた人物がこちらの事を認知していただけでなく自分のことを評価してくれていたのだ。何故?という気持ちと沸る気持ちがごちゃごちゃになり思考が止まりかけた時、重虎の父が入ってきた。


 「重虎よ、お主の後悔をせぬ選択をすれば良い。道三殿が美濃を抑えられた事をお主はよく思っていないのであろう?ならばその才を使って立身出世してくるが良い。我が岩手家は優秀なお前を失うのはとても痛手あるが北条殿の元で家臣となれる機会なぞ早々有るものでもなかろう。お前が居なくともこの家はワシとお主の弟で守っていける。遠慮をするなら。ワシはお主の才をここで活かせるとは思えぬのだ。」


 既に父である岩手重元には話が通っていた。他人とは違い早熟で才能の片鱗を見せていた息子に対して期待する一面、うまく発揮させられる場を用意できない事を歯痒く思っていた父は今回の氏政からのスカウトを知って渡に船だと感じていた。多分だがこれからは織田と斎藤が手を取り合い、織田と仲がよい北条とも関係が密になる。その際に既に深く入り込むことができていれば、我が家の存在感も重くなりある程度の地位を築ける。それに、息子である重虎は家を興隆させることにあまり興味が無さそうでいつも力を試す機会がない事を気にしているようでもあった。


 「わ、私は…」


 重虎としては北条へ行ってみたいという気持ちと家族を置いていくことの罪悪感とで揺れていた。


 「お主が北条で活躍する事で美濃と尾張における我が家の重要度は上がる。それに、お主の才を発揮する場があそこには揃っておるのであろう?何を悩む必要があるのだ。」


 「ま、まだ考えさせてください。」


 元服も済ませていないのだとふと思い出した父重元は急がせる必要もないと今回はここで話を区切り部屋を出て行った。


〜〜〜


 1553年 7月


 「あれから一年か…」


 重虎は今回ももらった氏政からの手紙を読み物思いに耽っていた。今回の手紙には尾張に直接出向くことが書いてあり、もし可能であれば顔を突き合わせて話をしないかと誘われていた。


 「よし、一度会って話をしてみて決めよう。」


 自分の気持ちに嘘はつけず、手紙を握りしめたまま父の元へと向かって行った。


 「父上、少しよろしいでしょうか。」


 父からの許可が降りたのでゆっくりと襖を開けて部屋の中へと入っていく。


 「どうしたのだ?」


 父が政務をこなしながら話を聞いてくれている。


 「はっ、北条様が尾張に来られるということで一度顔を合わせてみたいと思っておりまする。何卒許可を得られませぬか。」


 「うむ、勿論いいぞ。だが条件として、少々早いがお主の元服を行いたいと考えておる。良いかな?」

 

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