第271話 天才軍師

 1552年 竹中重虎


 美濃国 大野


 少し暖かいのが暑さに変わろうとしているこの季節に風魔小太郎から派遣された手だれの風魔衆の1人である男が商人に扮して、というか商人の仕事で美濃にある斎藤家に挨拶をした後に京まで向かう道のりの途中で岩手家を訪れていた。

 主人である氏政の命を棟梁である小太郎を通して様々な事を行ってきたが今回は人材登用であった。

 岩手家には織田殿に絵本や軍記物をわかりやすくした物などを送る際に少し数を融通して岩手殿に渡しており、そこでその本に興味を持った若者がいて定期的に風魔衆から北条の本(信長などに渡しているものよりも知られても良い内容)を購入している。

 今回はその男子を北条領にある軍学校へ誘う、もしくは側近として氏政の元に呼び寄せるの2択が任務であった。


 「これはこれは、本日もお目通が叶い感謝いたしまする。」


 男は愛想のいい笑みを浮かべながら若い男子へ挨拶をした。大野群大御堂城の勝手は知っており、謁見の間で待たせて貰っていたのだ。


 「いつもの定期便とは別に来てもらったようで感謝致しております。この時期ですと織田殿への戦勝祝いと道三様への挨拶ですかな?」


 男というにはあまりにも華奢で中性的な顔をしているこの人物こそ今回登用したい岩手重虎であった。齢8歳ながら理知的な雰囲気を持ち我々と対等に話をする姿にはどこか氏政様に似たようなものを感じた。


 「ええ、その通りにございまする。それと、いい書物が手に入りましたのでご紹介しようと思いまして…」


 そう言って用意しておいた貢物である本を重虎殿の側仕えに渡して重虎殿に渡してもらう。

重虎殿は、失礼と言いながら流し見の様子で内容を確認していくと、どんどんと紙を捲る音が少なくなり食い入るように内容を見つめていた。


 「…これは、北条氏政殿が自筆されたものであるのか…?そうでなければここまで鮮明に書けるはずがない。どう考えているのか、何をするべきなのか、実際北条がどのようになっているかなど軍事機密にも程がありまするぞ!こ、こんなものを私に渡してもいいのですか!?」


 重虎も北条から来た商人ということで薄々気づいてたが氏政との縁が強いこの男に確認を取る。それほどまでに衝撃的な内容であったのだ。具体的な技術や情報は伏せられているが作戦計画や氏政自身が作戦立案する際に大切にしていることや、重要視して力を入れていることなどこれからの内政に関わる方針などが書かれていた。

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