第268話
結局、氏政は氏康からお前が好き勝手にやるならばそれはそれでいい。だが、それによって今川との関係性を軽んじることや揺るがすことは断じて許すことはできないため、なんとかしろとありがたいお言葉を頂くことになった。
「はぁ、光秀はどうすればいいと思う?」
氏政は自室で光秀、勘助、幸隆、虎高、政豊、義堯、若手では義弘、正信、源太郎こと政綱、秀吉、政直が呼び出され久方ぶりの懇親会を開いていた。勿論他のもの達にも労いの意味を込めて宴会などは開いており、今回は特に重臣と呼べるもの達を集めていた。
「そうですね。やはり今川殿の元へは参るしかないでしょう。」
光秀が食と茶を楽しみながら答える。
「普段から交易等で手を携えている一方で領土の割譲や今川としての地位を脅かすような内政をしているこちらに対しては痛し痒しと思っているでしょうな。今回の織田殿との婚姻は確実に印象を悪くしているでしょう。」
勘助がそれに合わせて話を続ける。この二人は武略や謀略をメインにしておりよく話しているそうでまさに阿吽の呼吸のようである。
「すぐに襲われると言うことは無いでしょうが厳しく問い詰められる可能性もございまするな。」
美味しそうにご飯を書き込みながら人懐っこい顔をして喋るのは秀吉である。この場では若年のものも関係なく発言できていた。
「詫びではないが贈り物を多めに持っていき、今回の経緯の説明と裏切るつもりはないことを真摯にお伝えするしかないのでは?」
義堯が話を締めるように総括する。
「はぁ、そうだな。今川殿にはそれで納得して頂こう。織田殿を降した暁には尾張までの海路をそのまま利用してもらうか。その代わりに助けられるものは助ける。逆に織田殿が勝った場合は今川殿を保護する。蝙蝠の様な対応だが今川殿にも利がある話であろう。」
「そこに幾つかの条件を重ねられる可能性もありまするし、氏康様としっかりとお話ししてどこまで妥協できるかの塩梅を決めておくことですな。」
虎高が酒を楽しみながら応える。
「さて、堅苦しい話はここまでにして皆で風呂でも入りに行かぬか?最近俺が実用化した美味い飲み物があってな、風呂上がりに飲むと最高に美味いのだ。」
氏政は気を紛らわせる様に明るく皆に提案し、彼らを引き連れ天然の温泉へと誘った。氏政が用意した飲み物とは加熱殺菌をした牛乳に果実水を加えて冷水によって冷やしたものである。本当はコーヒー豆を手に入れたかったのだがまだ実用化できていない為泣く泣く果物を使うことにした。
城に備え付けられている温泉というのも珍しいが配下達を労える用に用意したこの温泉はしっかりと身体を洗うところ、蒸し風呂、温泉と整備されており内と外で分かれていた。
「ふぅ。こうやって集まって風呂に入るなど氏政様は凄いことを思い付きまするな!」
秀吉は嬉しそうに手拭いを頭に乗せながら話しかける。
「まぁ、武田殿も配下達への褒美として風呂を振る舞っているらしいからな。真似事だよ。」
氏政は配下との交流から心を癒しつつもコミュニケーション不足による不信感を無くす目的も達成していたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます