第265話 砥石城対策


 そもそも、武田信玄の敗戦として有名なのはこの砥石城攻めが一つであろう。砥石城とは、小城ではあったが、東西は崖に囲まれ、攻める箇所はその名のとおり砥石のような南西の崖しかないという城であった。中に籠る城兵は史実では500であり、その半数以上が信玄によって攻められ乱取りも行われた志賀城の残党であり士気も高かった。信玄は王道に崖から攻め上がったが籠城軍によって撃退され、その撤退戦で大きな痛手を追うこととなってしまったのだ。


 さて、現在に戻るが砥石城の要害ぶりは史実と変わらずだが、中に籠る兵はタチが悪くなっている。信濃ほぼ全域を抑え悉くを封殺した信玄は史実よりも恨みを買っており、一人一人の兵の士気は高くなっている。また、史実よりも米が流入したことによる民の数の増加が砥石城に籠る兵の数を倍にしていた。これが史実よりも余裕がある信玄に対してどう牙を向いてくるのか、それは誰にも分からなかった。


 「さて、各々方お揃いでございまするな。」


 飯富がこの場を取り仕切り進行を務めていく。信玄を上座に机を左右に各将が座り光秀は半分ほどの位置に座らせていた。北条に対する礼儀とその戦果に対する扱いである。


 「この砥石城は言わずとも知れた要害であります。この城を落とすには東西の崖から駆け上るか正門を正面突破するしか無いと思われますが何かご意見がある方はいらっしゃいますかな?」


 飯富の意見に対して特に反対もないのか、武田の武将は腕を組み唸る。皆が縋るように信玄を見るが信玄はその視線に対して動じることなく黙していた。この重苦しい雰囲気を感じ取った穴山は自分が聞くしかないと思い光秀に向かって話しかける。


 「小諸城を見事に落とされた明智殿には何か策はおありでしょうか?もしあるならば是非ともご教授願いたいのですが。」


 その言葉によって周りの諸将は自然と光秀に対して視線を向ける。


 「そうですね。なれば砥石城は落とさずとも良いのではないでしょうか。」


 は?とあちらこちらから声が上がる。


 「成程、3000も兵を配置しておけば背後を突かれる心配もないか。さて、どうするかだが…。」


 ここで穴山は信玄の方に目線をやった。


 「明智殿を信頼して我々の背を任せたいと思う。しかし、全てを任せるのはあまりにも無責任というもの。飯富よ、兵を500与えるので明智殿の与力として働いてくれるか。」


 「はっ!お下知とあれば全力で励む所存にございまする!」


 元々小諸城を落とした飯富には前日からこの話が通っていた。勿論光秀がこのような提案をする事はわかっていなかったが、既に戦果を上げていた飯富には貧乏籤を引いてもらう可能性が高いことを伝えていたのだ。


 

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