第262話 飯富vs 小笠原

 馬場信房


 木曽福島城に集まった3000の兵のうち1000を纏めて林城へと向かう馬場と山県、飯富は、戦が始まる数ヶ月前からどの様に林城を落とすか頭を突きつけていた。


 「やはり、攻城戦となるか…」


 「そうですな、兄上」


 「私もそう思いますが、一手打ち込むことができれば野戦に引き摺り出せると思います。」


 馬場信房が一つ提案をしようとしていた。


 「ほう、どのようなものですかな?」


 「秋山殿から借りた三ツ者達に仁科盛能を使って小笠原長時を煽らせるのです。仁科は元々小笠原と敵対しており、婚姻同盟により臣従していますがあからさまに小笠原を毛嫌いしている模様です。そこを突いて籠城ではなく野戦に引き摺り込むのです。」


 「やるだけの価値はありそうだな。その取りまとめを馬場殿にお任せしよう。よろしいか?」


 「はっ!必ずややり遂げて見せます!」


〜〜〜


 「なんだと!ワシのことを弓を使うことしかできない人望のない者だと仁科が吹聴しているのか!?」


 林城下では、三ツ者達が仁科と小笠原の対立を煽っていた。小笠原長時はその弓の腕から小笠原流の宗家として恥じない実力を持っていたが統率力に欠けていた上、直轄の軍が少なく、寄せ集めの兵や国人ばかりを率いていた為お世辞にも軍として成り立っているというのは憚られる程であった。その自覚はあった長時は顔を紅潮させ仁科に対する怒りを深めていた。同様に仁科の方でも小笠原に臣従した仁科は今となっては風下に立たされる臆病者だと国人達から言われているという噂が立っており対立を深めていた。


 「「あやつめ!絶対に許さんぞ!」」


 奇しくも二人とも全く同じセリフを述べていたのであった。


〜〜〜


 林城前で飯富、山県、馬場はそれぞれ中央、右翼、左翼に分かれて小笠原混成軍と対峙していた。相手側は鶴翼の陣を敷いているようだ。


 いつものように法螺貝を吹き鳴らし鏑矢を打ち込み合戦が始まった。小笠原混成軍は一刻もしないうちに瓦解していった。というのも、当たり前だがそもそもの基礎兵力の差が大きかった。武田軍はまがいなりにも全兵に武装が行き渡っており歴戦の猛者達だが、混成軍は武装はまちまち、戦いも素人であり、小笠原軍としての連帯感などは皆無で指揮官同士が歪みあっている上、仁科は小笠原を見返す為に突出し、小笠原は統率力を見せる為に各国人や兵達を細かく指示しようとして逆に足並みが揃わず破綻していた。


 「少し揺さぶっただけでこの様か…。まぁ良い、一気呵成に叩き潰すのだ!!!」


 飯富の号令が行き渡り陣太鼓が打ち鳴らされ全軍の突撃が始まった。馬場率いる騎馬隊の突撃が元々崩れていた混成軍を完全に崩した。その上から馬場が残していた副将達が歩兵を率いて全面に圧をかけた。その時点で小笠原軍は散り散りに逃げ出そうとするも、山県率いる軍が側面から突き、ほぼ完全に殲滅してしまった。

このまま戦後処理を行い、負傷兵数十名と抑えの兵300を林城に残して次の戦場となるであろう更級を目指して飯富軍は進んでいったのであった。

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