第253話 軍議


 1552年 5月上旬 織田信長


 「さて、大和と伊勢が弾正忠家の不穏分子を纏めて掃除する機会をくれた訳だがこんな戦でお前達を失う訳にはいかぬ。なるべく死者を出さずに敵を鏖殺せよ。以上だ。」


 信長は軍を指揮する年配の忠臣達と、北条に行って学んできた若手で能力のあるもの達を集めると作戦を指示せず訓示だけを述べた。


 「では、具体的な軍議について進めさせていただきます。我々が手に入れた情報と予測ではこの地、稲生でぶつかるでしょう。こちらとしては攻めかかるよりも迎え撃つつもりです。川を越えずに少し川から離れて布陣し、敵の渡河を成功させます。そうする事で逆に敵の逃げ場をなくしこの場で全て片付けるのです。」


 丹羽長秀がこの場を纏めて進行を進める。年配の忠臣達は若輩者に支持されるのに抵抗感が無いわけではなかったが、この常備兵達をよく理解して運用方法をわかっているのは彼らだったので今回の戦に限っては任せるという事に信長の指示を通して決定していた。


 「ふむ、それは理解できるが敵がそこまで思い通りに動いてくれるであろうか?青田狩りを行う可能性もあれば迂回してくる可能性もあると思うのだどう考えてござるか?」


 史実とは違い、古参派の筆頭である柴田勝家は計画の中でも穴となりそうな所を突いていく。嫌がらせでそうしているわけではなく、勝家が発言する事により他の有象無象のもの達のうるさい声を黙らせるためであった。また、ある程度古参派が発言をしたという事実が彼らの自尊心を満たす事にも繋がると考えていた。


 「はっ、そちらに関しましては信勝様が無理難題を通して渡河させる予定です。今の今まで伏せてきましたが、信勝様は信長様に対して忠誠を誓っており今回の事も我々が画策して反乱者を炙り出しただけにございまする。ですので、信勝様とその直轄の軍には手を出さないようにして、川を渡ってくる雑兵よりも反乱者の首を落とす事に専念して頂きたいと思っておりまする。雑兵供の相手は我々新参者が請け負いまするゆえ、敵武将の討ち取りはお任せ致しまする。」


 古参派、新参派どちらからも驚きの声が上がる。信勝がこちら側に寝返っていた事を知りこの茶番が仕組まれていた事が明るみになった事で皆がこの戦の目的を認識していた。邪魔者の一斉排除である。


 「そういう事であれば我々が歴戦の武をお見せしようと思いまする。皆のもの!若人達に織田の強さ、虎の強さを教えてやるぞ!」



 「「「おう!」」」


 柴田勝家の一言を元に古参派家臣たちの結束が固まった瞬間であった。


 

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