第252話 不穏な気配

1552年 4月 信長

 

 「爺よ、氏政のやつから風魔の傘下に入っている忍び達から情報を回してもらえることになったぞ!」


 信長は労せずに手を伸ばす事ができてにやけ顔が止まらなかった。


 「しかし、北条殿には我々の生命線を握られているようなものですぞ?一生氏政様の下で良いのですかな?」


 平手政秀としては今の状況としてはしょうがない上に最高の一手だということは理解していたが他の家に内部深くまで入り込まれているこの状況をよろしくないということも理解していた。


 「はっはっはっ、そんなわけがなかろう?今は弾正忠家は尾張の一大名でしかない。そこから尾張国守になるには北条の力を借りるのが一番効率がいいのだ。その為に頭を下げなければならないならどれだけでも下げようぞ。それに、奴は何故か俺を傘下に収めようというよりも協力者として居ようとしてくれている。よっぽどの事がない限り俺に対して何かすることは無いだろうよ。」


 信長にはこの事に関して確信に近い何かを持っていた。


 「まぁ、我々が自分たちで忍びを持たなければならないのは勿論のことだからな。伊賀あたりからまとめ役の1人でも引き抜ければ最高だな。爺よ、動いてくれるな?」


 平手政秀としては信長の無茶振りはいつものことで何も言い返す気にもならなかった。それに必要な事だとも理解していたため粛々と指示に従って上忍を引き抜く事を自分のやる事リストに入れた。


「さて、氏政からの援護、うまく利用せぬ手はないな!」


〜〜〜〜


 信長が酒井が画策して弾正忠家で反乱を起こそうとしているのは信勝からの報告で知っており、詳しい内容は氏政から支援された忍びによってわかっていた。それを利用しないわけもなく、母土田御前の元に旧態依然としたまま利権にしがみつく者達や無能な味方をあちらに押し付けたりしていた。


 「坂井様、順調に計画は進んでおります。そこそこの数のもの達が土田御前の元に集まり今か今かと時を待っております。このままでは土田御前が暴発してしまい勝手に動いてしまう可能性も高いと思われます。」


 「ちっ、こちらの言うことだけを聞いておけばいいものを…。しかし、反乱を起こすには勢いも大事であるな…。よし、土田御前には5月上旬に伊勢と共に末森城へと向かい信勝を正統なる後継者として支持し、信長を引き摺り落とすと伝えよ。それまで待つようにともな!」


 「はっ!」


 山犬は坂井の元を辞すとそのまま仲間達に内容を伝え、末森にいる土田御前にそのままの内容を報告し、信勝と信長には密告をした。


 信長はその報告を受け入れると慌てる事なく、向こうに気取られ無いように分散させていた常備兵を少しずつ手元に集め始めた。

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