第245話

 1552年4月


 信秀の死後、信長を喪主として葬儀がつつがなく終えられた。その中でも清州織田からは弔いの使者すら来ず軍備を整えて反抗の意思を隠そうともしなかった。また、鳴海城の山口親子は今川に備えるためにと両者共に那古屋まで来なかった。


 逆に美濃や六角、北条などから重臣や使者が送られてきた。これは信秀の影響力を物語っており、うまい具合に周りの国人達へと牽制になっていた。


 弾正忠家は信秀の遺言通りに信長の元一応纏まっていた。信勝は反抗する意思などは特に無かったが母である土田御前が強く当主になるのだと繰り返している事からどうすれば良いのか戸惑っていた。また、何人かの家臣達も自分たちの都合のいいように動かせそうな信勝を担ぎ上げようとしたり、信長に対して懐疑的な部分が多く信秀の遺言通りに従っていいのかと悩むものもいた。


 信長はこの状況を打破するには戦に勝ち認めさせるしかない、丁度いい餌もあると心の中で笑っていた。まるで悲しさを振り払うために空元気を出しているかの様でもあった。それと同時に信長としてはこれから好きにやれるという未来に対する興奮もあったのである。


 「さて、氏政からの援護、うまく利用せぬ手はないな!」


〜〜〜〜


少し時は遡り、葬儀の準備が行われている頃。


 「そうか、尾張の虎殿は逝ったのか。」


 尾張にいる風魔からの報告を受け取った氏政の手元には信長からの私的な手紙があった。信長は父信秀の死後、風魔を通じて最速で氏政に手紙を送っていたのだ。


 中には、自分が尾張を統一する事、今川を押し返し三河まで手に入れた際には今川を見捨てて織田と同盟を組んでほしい事、父との別れは思った以上に辛かった事が書き記されていた。


 前半の方は勝つ気満々で面白過ぎると思っていた氏政だが、後半になるにつれ筆が震えている風に見えた。


 「そうか、そうだよな。肉親が死んで堪え無いはずがないよな。」


 今氏政の頭の中では信長をどう支えるべきかを高速で組み立てていた。一度会った信長はやはりカリスマ性に溢れておりついて行きたいと思わせる人物の片鱗を見せていた。その彼がやり取りする自分に心情を吐露してきたのだ、1人の友として、兄として振る舞う信長の弟としてなんとかしてやりたかった。それに、ここで信長が地盤を固める事でこれからの歴史でやり易くなる…はずだ。


 「よし、小太郎。この手紙を信長に渡してくれるか?出来るだけ早くに頼む。それと…次郎法師!父への面会の予約を取ってくれ!」


 氏政の小姓として側近として働いている次郎法師、木下秀吉、本田正信、真田源太郎などに矢継ぎ早に指示を出し、自分はそのまま小田原城へと向かった。


 

 

 

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