第213話

 小田原城の評定の間には今集まれる責任者たちが揃っていた。北条の猛虎 北条氏康を最上段に、すぐそばの一段下に北条の龍 北条氏政が控えていた。他にも直勝や綱成 幻庵や笠原など錚々たる面子が左右に控えて幕府からの使者である細川藤孝を迎え入れていた。細川藤孝は物怖じすることなく評定の間に入り氏康の前に座る。


 「現将軍 足利義輝様からのお言葉をここに伝える。北条家の関東を重んじる心意義見事である。ここに伊豆守護 相模守護に任命する。以後は関東管領である上杉実虎殿を助け関東の秩序を重んじるようにとのことだ。」


 細川藤孝が言葉を言い切った際に臣下たちから殺意が溢れ出る。当たり前のことだが、北条は自分達の血を流して手に入れた領土や守ってきた民たちをただ命じられただけで手放せと言われているのだ。許せるはずもなかった。

 現在土地を持っているのは北条縁者のみであり、代官を臣下が務めているくらいだが、北条の臣下達は満足していた。自分達が北条家の一員だと本気で考えている面々も少なくなかったし、それを誇りに思っていたからだ。


 藤孝もその空気を感じているのだろう額から一滴の汗がこぼれ落ちた。


 「なるほど、謹んで拝命致しましょう。しあし、上杉との協調は受け入れられても現在我が支配下にある領地を手放すことは受け入れられませぬな。幕府は我々をコケにするおつもりかな?」


 氏康が怒りも不満も感じさせずに淡々と告げる。


 「ふぅ、ここからは私的な言葉ですがよろしいか?」


 無言で頷く氏康。周りの臣下達も何を言うのだろうと耳を傾ける。


 「伊豆守護と相模守護を与えたのはこちらからの誠意を見せたのです。残りの領地に関しては我々はまだ決めかねています。というのも貴殿らの真意が読めぬからなのです。あなた方は古河公方を降し小弓公方も降しました。将軍家に謀反を起こすおつもりなのかと心配しております。しかし、その一方であなた方は自分達の身を守った上で領地を手に入れただけ。勝敗は武家の常、仕方がない事だと義輝様は考えています。」


 ここまで言い切って一息ついた藤孝はさらに言葉をつづける。


 「可能ならば上洛してくださいませ。船で簡単に行き来できることは私が体験いたしました。直接義輝様に反抗する意思はないとお伝えくださいませ。その際に私も口添え致します。現在の領地を任せてもらえることでしょう。その上で三好討伐に力を貸していただければ必ずや幕府の重臣として扱われることでしょう。」


 最後まで行ったことで藤孝は満足そうにしていた。これは破格の条件だったからだ。北条に関東公方の仕事と関東管領の仕事を両方任せた上で過去のことは不問とすると言うことだからだ。義輝と藤孝は北条の援軍と上杉の援軍が有れば三好を畿内から追い出し京都から支配できると考えていた。


 「なるほど、それは我が家の一大事ですな。今ここにいない者達にも謀る必要がございまする。必ずや使者か血縁のものを送らせますので一足先に将軍様にお伝えくださいませぬか?」


 藤孝はできれば自分と一緒に来て欲しいと思っていたが、上洛してくれるだけで十分だと考えてここは引くことにした。


 「わかりました。あなた方の上洛をお待ちしておりまする。京に来られたら細川縁者のものに連絡をくださいませ。私がお迎えに上がりまする。」


 「丁寧にかたじけないことでございまする。では、よしなに。」


 堅苦しい話を終えた氏康達はそのまま共に食事をとり親交を深めた。

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