第212話

実虎と前久はその後、折を見て飲み会をお開きとした。実虎は帰り際にもう一度義輝の元を訪れた。その際に義輝は実虎を越後守護に命じたのだった。関東管領に関しては義輝や幕臣たちの中でも保留となっていた。というのも、北条が幕府に恭順し、力を貸すのならば実を持つ彼らに関東管領として支配を認めても良いのではないだろうかという声が細川や伊勢を主力として声が上がっていたのである。


 勿論前から北条は簒奪者であり公方を滅ぼした悪だと批判するものたちもいたが、北条を味方にできた時の利が大きいためにとりあえずは様子見と言うことになったのだ。北条から来ている定期便に使者として細川藤孝を乗せて送り出すことにした。今年の年末に呼び出すためにそろそろ到着する頃だろうと思われていた。


〜〜〜


河越城 北条氏政


 「なんだと?細川殿が使者として江戸港に来ているのか?」


 「はっ、現在は直勝殿を中心に丁重にもてなし時間を稼いでおりまする。今のうちに殿と氏康様に報告しております。」


 風魔配下の者が整備された道を使って馬を乗り継ぎ半日もしないうちに氏政と氏康の元に連絡を届けていた。


 「ちっ、目的は分からぬのだな?」


 「はい、申し訳ありませぬ。幕府の使者として氏康殿に伝える事があるとしか仰っておらず…」


 風魔のものが申し訳なさそうに頭を下げる。


 「いや、知らせに来てくれただけでも良くやってくれた。勘助を呼び出せ!それと供回りを選定しろ!今から小田原に急行するぞ!」


 氏政はどう動くにしろ自分も行ったほうがいいと思いとりあえず父の元へと向かうことにした。勘助に河越城の留守を頼むと供回りを10数人で小田原に急行した。

 父の元にたどり着くのは早かった。氏政が着いた時には既に話が通されていたのかすんなりと父の所まで案内されたのだ。


 「父上、お忙しい中失礼致しまする。幕府からの使者が来たと聞き、居ても立っても居られずこちらに参りました。」


 父氏康はこちらをチラッと見ると手元の書類に目を戻し業務を再開する。


 「幕府に関しては適当にあしらうつもりだ。よっぽど無理難題を突きつけられない限り相手の要求は飲む予定だ。飲んだところで履行するかは怪しいがな。」


 氏康は有無を言わさない雰囲気を醸し出しながら言葉を紡ぐ。最近では氏政が活躍しすぎており氏康の評価が、相対的に低くなってきていた。簡単に言えば舐められ始めていたのだ。氏政は八幡の使いであり結果も残している。既に家督交代をしても良いのでは?と囁かれ始めていた。


 「はっ、仰る通りかと。」


 「ふっ、お主の耳にも入っておろうが我ら親子の仲を悪くさせようとする動きがあるようじゃ。そんな細事気にせずとも良いが、ちと放ってはおけぬ事なのでな。ある程度舵取りをこちらに戻してもらうぞ。お主は空いた時間を使って好きなことをすると良い、やりたい事があるのだろう?」


 氏康は氏康で情報を集めており、息子が何か企んでいることを仄かに気づいていた。


 「はっ、お恥ずかしながら京へと向かい帝から正式に関東を任せて頂けるようにお願い申し上げに行こうかと思っておりまする。」


 「なるほどな。我々の支配下にいる奴らの炙り出しを進めるためにもお主は京へ行くと良い。こちらも大部分は臣下に任せて良くなってきた。河越一帯の武蔵や房総半島の領地もこちらで預かろう。既に計画は進んでいるのだろう?仔細は義堯に任せるとしよう。それと下野と上野は康虎に任せ、内政は特に光秀に任せる。これでどうだ?」


 氏政は特に言うこともなかったので感謝の意を込めて頭を下げた。


 

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