第198話

「できますれば我々はこれからも相馬殿と取引がしたいと思っております。よろしければ我々と交易関係を結びませぬか?関東では戦が無くなり米の生産が安定しております。その上で商人の店を相馬港へと置かせて頂きたいと思っております。蝦夷地から戻ってきた時にまた寄らせて頂きますのでその時にお返事を頂けますか?」


 「それは…。私どもとしては兵糧を回してもらえるのは有り難いですしお受けしたくはあります。しかし、そのように簡単に決められることでもないのでお時間を頂けるのはありがたく存じまする。」


 草野直清は得体の知れない恐怖感を抱きながらも何故か断れなかった。実際兵糧が取りづらい奥羽では米が安く手に入るのは大きなアドバンテージな上にひいては、武具なども手に入るかも知れない。その上、関東の覇者である北条家との繋がりを持つのは悪いことではないと思っていたからだ。


 「では、兵糧の方ですが港に運び込みます。私たちは水と生ものさえ頂ければ十分ですので今回の取引はこれで。」


 「ええ、感謝いたします。できますれば関東の様子などを知りたいと思っておりまして、荷物の積み込みなどにも1日ほどかかりましょう。どうですか、夕食をともに致しませぬか?」


 草野直清はこちらが関東に興味を持っている事を伝えるのと、実際に情報を仕入れるために義堯に対して礼を尽くそうとしていた。それをわかっていた義堯は快諾し、夕食をともにすることを決めた。


 遊女や豪勢な食事で場を盛り上げてもらいながらそろそろ本題へと入ろうとしていた。


 「実際関東では北条家が権勢を奮っているようですが、こちらに伝わってくる噂によると武士による土地の支配を認めておらず本領安堵すらされないと言われておりますが実際どうなのでしょうか?」


 全国的にみても当たり前のことだが鎌倉時代から続く御恩と奉公による武士と土地の呪縛はそう簡単に変えられるものではない。それこそ北条のような強引な力を持って皆に認めさせその豊かさを肌で理解しなければ到底納得することなどできないし、できたとしても価値観を変えられるものもそうそう多くはない。その辺りが伝わっているようだった。


 「私は元々安房の大名でした。ここと同じように山ばかりで平野が少なく米があまり取れないために下総に進出するしかありませんでした。その準備を進めようとしていた時に我が主人氏政様の武略に敗れ配下となりました。

 実際初めは戸惑いの方が大きかったですが、今は全くそうは思いません。

 相馬家では内政を行っていますか?民を笑顔にするために米の生産量を上げるだけでなく特産や娯楽、市場の整備や働き口の斡旋など何かをしていますか?我々里見家では出来ていませんでした。しかし、氏政様は違ったのです。民を富ませる事により引いては北条の繁栄を作り上げているのです。

 話がそれましたが、氏政様の統治の方法を我々が受け入れ民の管理を委託しているのです。実際、我々が民から搾取できる米は石高の半分ほどですが、禄は丸ごとそのまま土地と同じ価値の禄を頂けるのです。その上で我々は得意な文の仕事や武の仕事をそれぞれ頂き北条家の中で出世していき、禄を増やしたり土地を増やしたりするのです。勿論管理するのは北条ですが。」


 義堯は一気に言い切った。伝えたいことを全て伝えられたとは思わないが草野直清はあっけに取られているようだった。


 「草野殿には答えづらいかも知れませぬが、我々が乗ってきていたあの大きな船、あれを考えついたのも我が殿です。一度、どなたかを連れて北条まで来てくだされ。そうすれば北条がどのような世を作り上げようとしているか分かるはずです。そして、なぜ我々があのお方に仕えて行こうと思えるのか、何を誇りにしているのかを理解するはずです。では、今宵はお開きということで…。」

 

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