第197話

 状況説明


 佐竹で意思決定が決まったのは2月頭だった。準備やら何やらで風魔に知れ渡ったのは義堯が帰ってから少しするまでこの情報は伝わることはなかった。


〜〜〜


 「ほう、佐竹はこちらに人材を寄越そうとしているのか。いいではないか、彼らを受け入れ北条のやり方を仕込んでいけばそう遠くないうちに併合がしやすくなるだろう。よく知らせてくれたな義堯。」


 とりあえず一区切りついたところで茶菓子であるカステラを食べながら一息つく。


 「はっ、見たところ老臣達の中にもこちら側、親北条派はちらほらいるようです。後をどうするかはお任せいたしますがきっとうまくいくことでしょう。」


 義堯も久しぶりに食べる甘味に頬を綻ばせながら楽しんでいるようだった。


 「奴ら、内紛でも起こさせて義昭側を支援してその名目で傘下におさめるか?」


 ふと出てきた言葉だったがいい案だと思った。


 「いえ、それは辞められた方がよろしいかと。そんなことになれば佐竹義昭殿は必ず気づきしこりが残ります。ここは親北条派を増やすことに専念いたしましょう。」


 常陸に対する対応に関わらせていた秀吉が答える。


 「そうだな、焦らずとも良いか。義堯続きを聞かせてくれないか?」


 「はっ!次に向かいましたのは相馬家でございます。」


〜〜〜〜


 段々と北に進むごとに海風が冷たくなる中陸地が近づいてきた。今度は佐竹から岩城を飛び越え相馬までやってきていた。相馬は岩城と伊達に挟まれた領地で縦に細長く、岩城に比べ他家から攻められやすいという特徴がある。

 それに、天文の乱が起こった時に父の代で伊達稙宗側に立った上に、正室の養父である懸田が晴宗に滅ぼされたため現在も晴宗側と激闘を続けていた。そのおかげで相馬では兵糧と水が交換できるだろうし、上手くいけば伊達と戦うための橋頭堡にもなるとかなり期待しながら向かっていた。


 「そろそろ相馬港へと着きまする。佐竹の時と同様に安宅と小早で向かい、連絡を入れて補給という形になるでしょう。我々は彼らと友誼を結んでいるわけでもないので相馬家血縁の方々と会えるとは限りませんがよろしいでしょうか?」


 船長からそのように伝えられた義堯はもちろんだと頷きながら答えた。言葉が伝えられてから半日後小早が港から戻ってきており使者とともに船の上まで上がってきた。

 使者となった男はこのような大きな船に上がるのは初めてのことなのだろう。キョロキョロしながら先導されてこちらに向かってきていた。船長室に迎え入れるわけにもいかないので甲板上でで迎えていた。なんとか用意した机と椅子を使い使者殿と対面する。


 「初めましてにございまする。北条家 北条氏政様配下 里見義堯にございまする、以後よしなに。」


 軽く頭を下げる。


 「これはご丁寧にありがとうございます。相馬家 配下 草野直清にございまする。」


 義堯は少し驚いていた。初めてきたのだから配下の伝令が確認に来たのだろうと思っていたらしっかりと武将が出てきたのだ。


 「我々は関東を出て、このまま北へと向かい蝦夷地に行くつもりです。その途中で水を補給させて頂きたいのですが。勿論、銭や兵糧などでお支払いはしっかりといたします。」


 草野直清はこちらから向かった人員から話を軽く聞いていたのだろう。驚くことなく対応してきた。


 「はい、勿論大丈夫にございます。できますれば兵糧でお支払い願いたいのですがよろしいか?」


 「わかりました。やはり、伊達との戦は続きそうなのですか。」


 「ええ、こちら側としても引くに引けませぬし、引くつもりもございませぬので…」


 軽く戦況について聞きながら場を保たせる。少し落ち着いてきた頃に踏み込んでみた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る