第196話

評定に集まった家臣達は皆が言葉を失っていた。親北条派もこの話については話されてはいなかったからである。


 「と、なりますと狙いは北になりますかな?」


 父の代から佐竹を支えている老臣の一人真壁宗幹が聞く。彼は義昭側だが老臣たちの暴発を抑えたり行動を内部から探る為にわざわざ老臣達側で立ち回っている男の一人だ。


 「ああ、我が養父殿は佐竹 蘆名 伊達を相手に大立ち回りをしておられるがあの男の本質は陸奥人よ。我々のことを排斥し、陸奥の中に引きこもっておる臆病者だ。奴はいつかそう遠くないうちに伊達と手を組みこちらにちょっかいをかけてくる。その前にこちらが叩くのだ!」


 史実でも佐竹義昭は自分の正室の父である岩城重隆から侵攻を受けていた。特にこの世界では佐竹の拡張が上手くいかなかった分史実よりも佐竹は舐められており岩城からの対応もおざなりなものだった。そこから義昭は岩城との関係を軽視していた。


 「ですが、岩城を攻めれば相馬や伊達など陸奥の諸大名が黙ってはおりませぬが?それに、岩城は蘆名とも通じております。ちと分が悪いのでは?」


 配下達もそう思ったのかしきりに頷いていた。義昭はそんな彼らの不安を吹き飛ばすかのように大きな笑い声を上げた。


 その行動に周りの配下達は気が狂ったのかと驚いたが、義昭の目に籠る強い力をみて気を引き締めることとなった。


 「何のために我々は米の生産力をあげ、銭の兵に変えてきたと思うっているのだ。私の直轄兵3千と方々の城で少しずつ揃えてくれた銭の兵を合わせれば5千は固い。これを奴らが想像してもいない時期、農繁期に攻めかかるのだ。」


 あちらこちらから驚きの声が上がっていた。6千もの銭雇の兵が揃えられていたこともそうだが農繁期に攻めるなどという思考はごく最近まで無かったのだ。佐竹は北条を攻めた事があっても攻められたことはなかった。それにより、更に大きな驚きとなっていた。


 「狙うのは大塚氏 宗家の大塚政成だ。奴は竜子山城で佐竹と岩城の境を担っており、最近は佐竹との取引の旨味やこちらの繁栄具合から靡こうかどうか心が揺らいでおる。それに、あそこを落とせれば相馬や二階堂の方面から横槍が来ても耐えて凌げる。横槍が来なければそのまま岩城を落としきり、険しい山々を使い天然の要塞として伊達勢力の拡大を防げば良い。どうだ?」


 「それならば、その策は成りましょう。しかし、白河や二階堂など佐竹の横原に食いつかれればひとたまりもございません。農繁期に攻め込むのであれば大丈夫だと思われますが万が一を考えれば抑えの兵が必要になるのでは?」


 真壁が老臣達を代表して問いかけてくる。もうこの時点で彼らの聞く姿勢は整っており北条がどうのこうの等ということは頭から抜けていた。


 「蘆名は中山道に出たがっている。このことはわかるな?我々が岩城を押さえれば少ない兵力で陸奥の奴らを牽制できる。その後に二階堂と白河攻めを手伝うとしたらどうだ?奴らはきっと牽制の為に兵を差し向けてくれるはずだ。まあ、白河や二階堂が兵を起こせればの話だがな。」


 「ここで蘆名に借りを作るのは面白くありませぬ。それに北条が食指を伸ばそうとすれば白河や二階堂を押さえるのは悪手では?我々は銭の兵1000もあれば白河を抑えることもできましょう。北条は少しでも危険があれば軍を国境に寄越すはずです。彼らを囮に使い我々の防衛力を高く見せれば1000で充分な効果を得られると思いますが?」


 「よし、そこまでいうならば真壁の策に乗ろうではないか。義尚叔父上を大将に1000の兵で国境を固めるとしよう。残りの4000で岩城攻めをする。異存はないな!」


「「ははっ!」」

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