第195話

場がシンっ…と静まった。佐竹側は何を言っているんだ?という疑問と驚きで言葉が出なくなっており、義堯達北条側はそうきたかと思案していた。


 「それは、我々に従属ないし臣従をするおつもりで?」


 この義堯の言葉には佐竹側の反対派も声を上げることができなかった。自分達が信じてついてきていた主人である佐竹義昭が北条のもとにつくという事を言葉にしたのだ、何も言えるはずがなかった。


 「そうではありませぬ。我々は北条殿がやられている民を思いやる内政というのを参考にして頑張って参りました。

 この行動は氏政殿も喜ばしいことだと先ほど仰ったではござらぬか?なれば、あなた方のやり方をより深く学びに行くのはごく普通のことでは?

 そこに大名間の上下関係などございませぬぞ。北条が関東の民を思いやると言うならば現在取れる最善手は多くないと思いますが、いかに?」


 佐竹義昭は思っていたことを全て吐き出した。疲れたのだろうか湯呑みを手に取り一口、二口と飲み続けていた。


 それを横目に義堯は思考を回転させていた。氏政様の考え的には佐竹義昭を配下に加えたい。そのためにはできることを全てやるだろう。商人達や農民達の掌握はほぼできるはずだ。これ以上は佐竹の内部に入るしかない、佐竹義昭は佐竹内部の親北条派を増やすつもりなのだろうか?


 「外交に関係することなので私の一存で決めることはできませぬ。そちらの配下の方々もまだしっかりと内容を把握できてないご様子、よろしければ我々が氏政様の下に戻った際に直接お伝え致しましょうか?その頃には家中での意思の統一もできるのでは?」


 義堯としてはここで承諾してもいい内容だとは思ったが相手の意思が統一されていないこと、自分達も手一杯で直ぐには氏政の下には帰れないことを理由に引き延ばしにかかった。


 「そう言って頂けるとはかたじけない。では、帰りの補給の際に返答を配下を通じて知らさせていただく事で大丈夫だろうか?その上で義堯殿から氏政殿に連絡していただきたい。」


 「はい、それならば大丈夫でしょう。」


 その後はこの話は切り上げて佐竹領内の話や、北条のやり方について、もしくは蝦夷地はどんなところだろうと予想話に花を咲かせた。

その次の朝、義堯は佐竹義昭たちに別れを告げ次の土地である相馬港へと向かうことにした。


〜〜〜


 「義昭様!あの時のお言葉はどう言うおつもりですか!我々は北条の配下ではございませぬぞ!」


 義堯殿が帰ってからのお昼に皆のものを集めて評定を行っていた。親北条派である若い者たちは義昭から見て右側に、老臣達は左側に座っており、親北条派は老臣達を冷ややかな目で見ていた。


 「まあ、落ち着け。よく考えてみるのだ。我々は北条の真似をして米がよく取れるようになり以前よりも食糧に余裕ができたではないか?それに関を廃止した事によって以前よりも多くの商人たちが集まり遠方のさまざまな品が届くようになった。何か不都合はあったか?」


 その実績を伝えると老臣達も何も言えなくなり黙るしかなかった。実際に以前とは見違えるほどいい暮らしができているのは事実だったからだ。それに、佐竹が治めている常陸は関東でも有数の平野であり元々豊かだった。しかし、北条が繁栄し、商人と農民が常陸から出ていった事により、昔に比べ貧困の時期が強く印象に残った。その上で北条のやり方を真似して成功した為、誰も何も言えないのだ。


 「なれど…」


 「まあ、まて。皆にはまだ伝えていなかったが俺は陸奥に侵攻しようと考えている。その為には北条と縁を結び奴らが佐竹に手を出すのは損だと思わさなければならぬ。これならば今はわかるな?」

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