第176話


 氏政は前年から農地改革と共に押し進めていた街道整備を急ピッチで終わらせた為、田植えを始める前には三国峠への資源搬送経路を整備し終えていた。甲斐からは木材を買い取り、上野国に向けて商人達に運ばせており、石材は現地で整備している間に職人達によって不必要になった石を加工させている。必要な人員については本拠地方面から人夫を募って海上輸送してから三国峠まで道を通って来てもらった。勿論房総半島からも木材を伐採加工して海上輸送をしている。


 三国峠についてだが、直越(清水峠)、土樽越(蓬峠)と並んで軍事的な要衝として重要視されている峠の一つだ。この峠は三国街道が主要な道として存在しており軍事的に利用もできるほどのものである。氏政はそこを抑えようと目をつけた。山と山の麓になっている谷のような場所に平らな地形がありそこを縫うように人が歩いてできた道がこの街道である。


 地形調査をさせたものの報告により標高の一番高い場所である今でいう新潟と群馬の県境にある場所にまずは砦を建築する。そこを本城のように仮置きし、越後側上野国側それぞれに二の丸 三の丸のように段々と標高を下げながら砦を作る。越後側に少し進んだところには軍を駐留させることのできる大きな平野がある。だが寒さや交通の悪さから越後側には開拓されていない三国地域があるがこちらには氏政は手を出す気はなかった(現在スキー場)。というのも、無理すれば開拓もできる上に物資や人の暮らすための場所になるだろうが守るためには弱すぎるためだった。


 光秀はよくその事を理解しているため氏政が望むように動いていた。越後側もこちらが三国峠を抑え始めたのには気づいていたが手出しはできなかった。なぜなら、越後国で内乱が起こったからである。坂戸城主・長尾政景(上田長尾家)が景虎の家督相続に不満を持って反乱を起こしたのだ、不満の原因は景虎が越後国主となったことで、晴景を推していた政景の立場が苦しくなったこと、そして長年に亘り上田長尾家と対立関係にあった古志長尾家が、景虎を支持してきたために発言力が増してきたことであった。


 史実とは異なりしっかりと後継を指名して定実はこの世界を旅立ったが残されたものにとってはどうでもよかった。政景はこのまま実虎の風下に立って使われれば越後の頂点に立つ機会はなかった。なので、病床にいた定実を誘導して無理矢理実虎が上杉を継いだのだと難癖をつけ長尾の家督を渡せない、上杉も幕府から派遣して頂く正当な血筋に戻すと言う大義名分のようなものを打ち立てて反乱を起こしたのだ。


 この動きの裏には風魔が関わっていた。実虎個人とは仲良くしていこうとは思っているがこちらの安全が確保される方が優先だ。史実の謙信は義理深いなどと言われているが実質的には戦国大名であり実利主義の考えだ。だからこそ信長と考えがあったしあそこまで越後を治めていけたのだ。


 さて、話を戻すが氏政は現地に入り砦作りを支援したいとは思うがあそこまで行くと他の地域の統治に支障が出るため我慢していた。なので設計図をしっかりと考え逐一確認と連絡をする事で三国峠を思っているように要塞としようとしていた。まず先ほども述べた通りの本丸を用意するために整地をおこなっていた。そこに長屋のようなものを置いて人夫が働きやすい環境を整え、倉庫も設置することにより朝夜問わずに輸送して資材を蓄えている。


 整地を終えた場所から河東や河越に作ったような鉄砲を使用するための銃口を向けるための小窓を用意した城壁を作成し始めた。石材を上まで運ぶのは難しいので土やコンクリートを使って火に耐性をもつ城壁にし、少し城壁の内側に寄った場所に物見櫓を配置して射程距離の差により火矢が届かないようにした遠距離攻撃地点を整備しようという計画だ。

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