第177話

177


 「さて、今日の残りの報告を聞こうか」


 各地に飛び散っていく文官に対する激励の後、通常通りに評定を行う。氏政にとってはここからが大事だった。四月末、月末の報告会は重要な報告やまとめの報告があるのでここで全体の進捗を確認して二月先以降の予定を決めるのだ。


 「はっ、まずは武蔵についてです。」


 報告官が手元の資料を見ながら慣れた様子でスラスラと進行する。氏政が任されている箇所は多い。まずは海運全て、次に房総 武蔵 上野国 下野国だ。


 「こちらは相模から順次整備をしており房総に繋がる東側から河越までの東半国がほぼ整備を終えました。これからは自助発展していくのを我々が適宜手助けするだけでしょう。西と河越より北に関しては道の整備と農地改革を完璧に終えることができたと言えます。その道に沿ってまずは宿駅などの宿泊施設周りから発展させていく予定です。」


 「よし、武蔵はほぼ完璧だな。気になる点は甲斐へと続く道だがどうなっている?」


 氏政は頷きながら続きを促す。


 「武田側が八王子城までの道を整備しているようで人が集まり始めています。木材を購入しておりますのでお金が集まり人も集まっている様子です。ですので予想ですが八王子から平井、河越から八王子に向かってどんどん発展していくでしょう。」


 「武田は関所を撤廃しているのか?」


 「いえ、関所は残っているようです。しかし、税を取るのはやめ、身分の検査だけをしているようです。」


 「ほう?武田では我々のように簿記を導入してはいない筈だ。どうやって利益を回収するつもりなのかな?」


 これは氏政のふとした疑問だった。誰に対して答えを求めていた訳ではなかった。


 「おそらくですが、武田としては食糧や塩を持って帰ることができればいいのではないでしょうか?彼らには甲州金がございますれば、必要なものは金よりも実物となります。実際に報告書を先に読ませていただいた限りではこちらの身分検査を受けたものも塩や保存の効く食料類が8割方でございます。」


 「なるほど、そう言われてみればそうだな。税を取るよりも民の生活を安定させる事を目指しているのか。信玄らしからぬといえば信玄らしくはないな。ん?お主、名前はなんという?」


 聞きなれない声がしたのでふと目線をやるとそこには次郎法師の後ろに控えた同じ年頃の賢しからな子供がいた。なお、氏政も子供であるのだが。


 「はっ、突然の無礼失礼いたしました。この度から光秀様から許可を頂き見学させて頂いております本田正信にございまする。」


 次郎法師は慌てふためくこともなくジッとしているが目はうろちょろしており動揺しているのがわかる。この場では小姓はほぼ発言しない。意見を求められたときに次郎法師や秀吉 

源太郎が答えるくらいだった。


 「ほう、君があの。三河では大変だったようだが今は大分良くなっているようだな、見違えたじゃないか。それに、意見も的確だな。軍学校には通っていたのだろう?もう卒業したのか?」


 「はっ、今も通っております。このように仕事に参加させて頂ける時間は学校を休みこちらに参らせて頂いております。それに軍学校の教科書は持ち出しできるので空いた時間などに読み込み既に学び終えたので実技に関してのみ学校に通っている状態です。」


 秀吉や次郎法師 源太郎のように実技以外は全て終わっており俺の側近達から許可を受けたものという事だ。


 「そうか、ならばいい。これからは次郎法師達と同じように小姓としてお主も動くといい。城内の図書室の利用も許可しておこう。」


 これによって正信は城内に自分の個室が与えられ学校にも仕事にも行きやすく、学びたい事をさらに学べる図書室にも入ることができる。


 「さて、話の腰を折ってすまなかったな。次はどこの話だ?」


 

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