第168話


 北条康虎、勧農城を発つ。この下野国の国人達にとっては驚くべき知らせが届いたのはそれから3日後であった。そして、その時点で既に宇都宮城は包囲されていた。同時に壬生城は少ない将兵しか篭っていなかったので北条軍、全軍を見た留守役は自身の命を持って将兵の助命を願いその通りになった。抑えの兵を少し残して予定通り政豊は旧宇都宮領を制圧しに城を破壊しながら北上し続けていた。


 その話は風魔によって瞬く間に下野国のまだ制圧されていない地域に拡散されていた。支配階級の者達はその事実に恐れていたが関東の民である下野国の人々は壬生が宇都宮に取って代わった時とは違い、善政で有名な北条領になれるとあってむしろ喜んでいた。一揆を起こしたりすることは無かったが農民達は城に集まることはなく軍需品の提供を出し渋っていた。これはジワジワと効いており、そもそも抵抗する力が足りないと言うことになって次々に開城がされる結果に繋がった。


 「よし!我々は鹿沼城を制圧後、多気山城へと向かう!そこで多気山城から狼煙を焚くことで宇都宮城に籠る将兵達の心を折るのだ!」


 政豊は警ら隊達に騎馬を与えておりその迅速な動きで次々に各地域を支配下に組み込んでいった。城の抑えに残した兵達の騎馬は連絡役以外の分を回収して宇都宮城に順次送っていた。


 「義堯様には壬生領を落としたら戻っていいと言われているが、田川からこちら側は全て押さえてしまいたいな。風魔の者はいるか?」


 「はっ」


 「義堯様に田川以南、特に日光あたりまでの平地を押さえておく許可を得てきてくれ。こちらの状況は細やかに伝えてもらって構わない。」


 風魔は話を聞くとサッとその場を離れてすぐさま連絡へと向かっていった。


 「政豊様!地元の農民達が我々に協力したいと周りの地形や城の様子、食糧などを提供してくれています。」


 北条軍では行く場所場所で歓迎される事が多かった。というのも、先にも述べた通り北条軍が来ると言うのは彼らの未来が明るくなることに繋がっていたからだ。勿論、自分達で必要な分の食糧は後々補給部隊が持ってきてくれるがその場で取れた新鮮な食料があるのはありがたい事だった。


 「よし、彼らには感謝の証として金子を与えるのだ。それと、いつも通りに北条領の証明書を渡すのだ。」


 北条領の証明書とはこの土地が北条の支配下にあることを証明する簡単な書類である。これは割札のような物になっておりこの書類を持つ者からの緊急の各城への連絡は無駄な手続きなく通ることになっている。夜盗の討伐や害獣の討伐などだ。


 「ひと段落ついたら多気城へ向かうぞ!」


〜〜〜


 北条康虎は宇都宮城をぐるりとと囲いながら淡々と書類仕事をこなしていた。宇都宮城を囲んだ後は政豊と義弘によって下野国の制圧は進む上に、ただ単に待っている時間が無駄になっていた為である。宇都宮城からの抵抗があったり嫌がらせを行ったりするのは副官や現場の者達に任せておけるレベルになっていた。


 そのため、康虎は各現場から上がってくる決済書や連絡書にどうするかの判断を下し統治を既に開始していた。本格的な内政は文官がいなければ判断ができないが、戸籍の作成や検地など後方部隊が既に行える事は行わせていた。


 「康虎様、政豊殿からの連絡にございまする。鹿沼城を制圧、多気城へと向かうとのことです。多気城を制圧後は狼煙を炊き北条の旗を掲げこちらに伝え宇都宮城の士気を挫くそうです。」


 「よし、そのまま侵攻しろと伝えるのだ。他には何かあるか?」


 「はっ、もし許可が頂けるなら田川以南の壬生領を制圧するため日光まで進軍したいとのことです。」


 「ふむ、多気城を落とした後、我々が宇都宮城を落とし次第日光まで向かうことを許可すると伝えよ。」

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