第167話

 北条康虎


 「小太郎殿ではないか、殿の元ではなく私の方に来たのですか!?」


 康虎は自軍の調整をしながら那須と宇都宮の争いの趨勢を観察していた。


 「はい、既に現場は終わっており私の手が空きましたのでこちらに来ております。」


 「なんと!殿は上野を完全に制圧したのですな!それはめでたいですな。」


 康虎は長いこと付き合ってきている小太郎とは戦友でありながら別の意味でも友と感じており小太郎もその純粋な好意を理解しているため、普段では見せないような柔らかい雰囲気を二人は見せていた。それを見た周りの一般兵や忍びの配下達は驚いていた。普段は厳格で恐れすら抱いてしまうような二人だ、このような姿もするのだと思ったのだ。


 「小太郎殿、下野国の現在はどうなっているか教えてもらえるか?」


 さっと雰囲気を切り替えて仕事モードに入った二人にまた周りのもの達は驚いていた。


 「勿論です。下野国では既に混乱が落ち着きに向かっております。というのも、事前に我らが仕込んだ通りに宇都宮本家が配下の壬生や那須の共謀によって壊滅させられたからです。その後は取り決めの通りに土地を分割し宇都宮の領地を接収したようで、現在壬生は領内を落ち着かせた上で北条に擦り寄ろうと画策しています。」


 「ふむ、やつらは北条の内政や軍制度を受け入れるということかな?」


 言外にそれならばそれでもいいと匂わせている。


 「いえ、壬生家として領地を持ったまま従属 もしくは臣従という形を取るつもりのようです。」


 「なれば、元の予定通りにするだけだな。北条では個人や家が資産として領地を持つことを許していない。全ては北条家に属し、北条の民を重んじる為に動くのだ。」


 「ええ、勿論にございまする。幼い伊勢寿丸(のちの宇都宮広綱)は芳賀高定に連れられ、我々に護衛されながらこちらに向かっておりまする。2日以内にはこちらに到着するかと。」


 「彼らは北条に身を寄せるのであろうな?」


 「ええ、救援を求めると同時に北条の元で庇護していただきたいと要請されております。簡易的にではございますが氏政様は偏諱を伊勢寿丸殿に与え保護を宣言される予定です。ですが、それを待たずに宇都宮領奪還、かつ伊勢寿丸殿の仇討ちをするようにとの命令が降っております。」


 小太郎は懐から氏政直筆の命令書を康虎に渡す。康虎は片膝を突き恭しくそれを受け取りまたそれを確認した上で懐に入れた。


 「政豊!義弘!すぐに出立できるように準備は出来ているな!」


 「「はっ!」」


 「我々は全体で勧農城から宇都宮城へ向かって進軍する!その途中で壬生の本城である壬生城を政豊に任せる!そこを落としたら残りの壬生一派の城を順次落としていけ!

 義弘は宇都宮城を攻めている我々をおいて那須領に侵攻し攻め落としてくるのだ。鳥山城を落としてから順次落としていくのだ。抑えの兵は白川氏に向けて国境沿いにいくつか置いておけば良い!補給は蘆名から受けられるように氏政様が手配してくれている。」


 政豊と義弘は康虎からの命令を受けるとすぐさま自軍へと戻っていった。今回の配置については戦で大勢が出払っている壬生一派を新兵3000を操る康虎が抑える事で警ら隊が主になっている政豊で領地を切り取っていく。警ら隊と言っても軍学校に通い軍に入るか警ら隊に入るかの違いなので戦力としては大差がない。


 そして、房総の軍は熟練兵が集まる猛者ばかりの1000であり、ほぼ無傷で士気も高い那須に当てようと康虎は考えていた。


 「小太郎殿、我々は今から向かいますので氏政様への連絡はお願いいたしまする。それと大丈夫だとは思いますが蘆名が裏切った場合は佐竹の監視と報告をよろしくお願い申し上げます。」

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