第166話

 那須高資は少ない兵の中でも弓達者なもの達を周りに集めて伏兵として待機していた。鮎ヶ瀬あゆがせ 実光さねみつが放った一本の矢が宇都宮尚綱の頭に刺さった。彼は那須七騎・伊王野氏の家臣であり史実でも尚綱の命を奪っていた。


 「無理攻めはするな!引き太鼓を鳴らすのだ!撤退するぞ!」


 那須は宇都宮を討ち取ったとはいえ500ほどしか手勢がいない。ここで無理攻めをすればもし万が一に勝てたとしても周りから攻め取られ碌に反撃もできなくなる。そう判断したのだ。宇都宮配下の壬生とは話がついておりある程度の領地も手に入る約を結んでいるのも大きな要因だったろう。


 「追わずとも良い!それよりも残存兵力を纏めて城まで引くのだ!」


 宇都宮一派の笠間が本家の兵を纏めて撤退しようとしていた。彼らは後方に位置していた為状況がよく理解できていたのだ。まずは兵を落ち着かせることを優先していた。


 そして壬生はそれを読みきっていた。彼は那須の囮を放置するとそのままとって返す刀で坂上を取り混乱している宇都宮一派に向けて突撃を開始したのだ。


 「なんだと!?壬生のやつが裏切ったのか!この痴れ者が!」


 あっという間に落ち着きかけていた兵達は混乱に逆戻りした。笠間氏も手勢を纏めて何とか抵抗しようとするも坂上から突撃され後方に弓矢を撃ち込まれるとどうしようもなくジリジリと手勢を削られ遂には1刻程して討ち取られた。


 「よし!者どもは宇都宮一派の城を占領しに向かうのだ!我々は宇都宮城を抑えに向かう!塩谷は那須の配下となるがこちらとの繋ぎ役として働いてもらう以上手出しするなよ!」


 事前に取り決めていた通りに予定していた土地を次々に手に入れていく壬生一派は数日もしないうちに宇都宮一帯を残らず手中に収めていた。


 「さて、報告を聞こうか。」


 宇都宮城に本城を移した壬生は改めて配下を呼び労いの言葉をかけたのちに評定を行っていた。


 「現在、下野国は北条と那須が抑えている土地を除き全て我々の占領下にあります。農民達は支配者が変わったことをすんなりと受け入れているようで大きな混乱も起きていません。」


 内政が得意なものから報告が上がる。


 「こちらからは、伊勢寿丸(のちの宇都宮広綱)が芳賀高定に連れられて何処かに消え去った事が確認されています。どこかで下剋上を起こそうにも時間がかかるでしょう。それまでに我々はしっかりとした基盤を築くことが可能かと。」


 「一応、居場所は探るようにさせろ。佐竹の奴らが食指を動かさないとも限らぬ。奴らが下野国に手を入れるとなると厄介なことになる。」


 「ははっ!」


 「北条が後詰めとして一応兵を国境沿いに配置していたらしいがどうなっている?」


 「北条からは戦後夜盗になった兵士たちが領内に入っては困るからと未だに兵を配置しております。しかし、彼らは殺気立っておらず寧ろこちらに協力的な姿勢を見せています。」


 「ほう?協力的な姿勢とは?」


 「商人達を呼び寄せ必要な物資を安く買わせてくれています。これは周辺の村々の農民が集まり関所での収入が増えているようです。」


 「なるほどな。一応何かあると行けないので監視は怠るなよ。それと、北条には宇都宮一派が那須に打ち取られた為としっかりと弁明の使者を送ったのだろうか?」


 「はっ、勿論にございまする。既にこちらの状況は伝わり納得もして頂けているとのことが早馬で連絡がされております。」


 「ならばよし。このまま下野国を領地として北条に擦り寄るのだ。その一方で奥州や佐竹とも連絡を取り時勢を読み間違えないように舵取りを取らねばな…」

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