第165話


 「那須の奴らが塩谷を味方につけてこちら側に反旗を翻そうとも圧倒的な兵力の差がある我々は特に苦労せず奴らを誅する事ができる楽な戦となるであろう。留守処は芳賀高定を後見に息子の伊勢寿丸に任せる。本隊は我が率いる笠間や壬生は先陣として進め。喜連川を渡り那須の領地を占領する。今回は勝てる戦だが油断せずに領地を手に入れるのだ。」


 「「ははっ!」」


 尚綱としては、芳賀高照を討ち取るもしくは捕縛し今回のようなことにならないように確実に火種を消しておきたかった。また、壬生を出陣させることで背後に不安を持たせることなく遠征に出かけられる上に奴らに先陣を任せることによって戦力を磨耗させ勢いを削ぐ目的もあった。


 勿論壬生としてもそれは理解をしているため、ある程度の出血は強いられることになる事を理解していた。だが、易々とやられる訳にもいかない。それに今回の戦はいい機会だとも考えていた。壬生は自身の勢力に属する配下達を鹿沼城に呼び寄せていた。対外的には戦の前に配下達を労う宴会との事だが実際は違った。


 「さて、皆のものにはもしもの時に備えてもらうためにより一層厚みのある結束を築きたいと思い呼び出させてもらった。我主君宇都宮尚綱は我々を危険視し今回の戦で那須に討ち取らせようとしていることがわかった。」


 周りの配下達が何と言う事だ!我々は何のために!と次々に不平不満を露わにしていく。


 「私としてはこのままはいそうですか、と受け入れることはできない!尚綱が我々のことを裏切るならば我々が彼らを裏切ってもしょうがないのである!」


 そうだそうだ!と周りの意見が固まってくる。


 「我らは那須とあたることなく那須を素通りさせる!条件は塩谷を那須にくれてやる事にはなるが残りの宇都宮の地域を全て我々が頂くのだ!皆のものには宇都宮派の土地を与えることを約束しよう、我に着いてきてくれ!」


 「「ははっ!」」


 壬生は既に那須と繋がっていた。宇都宮尚綱までの道を用意するため必ず仕留めてほしいこと、仕留めればそちらに寝返った塩谷の領地を明け渡し不可侵を結ぶ事としたのだ。その見返りに壬生は宇都宮の乗っ取りを行う名文として高照をこちらに引き渡すように要求していた。


 彼らが出陣する頃には陣容がわかっていた。壬生勢力で1000 宇都宮派笠間氏が500宇都宮が500の合計2000の兵で喜連川へ向かって進軍を開始していた。那須は壬生から連絡をもらい、五月女坂に伏兵として500の兵で潜んでいたのだ。壬生は敵を見つけ戦闘を開始した、と宇都宮に報告を入れ、実際こちら側で用意した100程の兵と刀の刃引きされた部分で打ち合い奥に奥にと進んでいく。


 宇都宮は思った以上にあっさりと進んでいくなと思っていたがそれならそれで良いと特に深く考えずに陣を前に前にと出していく。坂を登る状態で待機するのは戦っていないとは言え嫌なものであった。さっさと坂上を取りたかったのである。そのため少し陣が崩れかけていた。そこの隙を那須は見逃さなかった。坂の両脇に伏せていた兵達を突撃させ宇都宮尚綱ただ一人を狙って突撃したのである。


 「なんだと!?物見は何をやっていた!」


 「物見は壬生に任せておりましたので!!奴らが報告をしなかったか見逃したのでありましょう!何よりも今はこの場を離れるのです!後方はもうダメです!奴らに荒らされていますので壬生の方に逃げるのです!」


 「くそっ!だが壬生のやつらは信用ならんぞ!」


 「それはそうですがそれしか方法はございませぬ!急いでくだされ!」


 殿を笠間に任せ宇都宮はわずかな供回りを連れ壬生の方に向かって馬を駆け出そうとした。その直後であった。弓矢がスッと飛んできて宇都宮尚綱の頭にささったのであった。

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