第161話


 「殿!国峰城 沼田城それぞれ陥落との事です。残るは長野業正が固めるこの城 箕輪城のみにございまする。どうか攻めの下知を。」


 血気にはやる千葉倅が城攻めの先方を申し出てきている。しかし、俺はそんなことは望んでいなかったので他の部隊が合流してから決めるといい下がらせる。


 「憲政はどうなっている?生け捕る事はできたのか?」


 「はっ、光秀様が上杉憲政を捕縛したのち河越送りに致したそうです。呼び戻しますか?」


 「…いや、光秀がそうすべきだと判断したのであれば問題はない。それよりもこの事実を虚実を入りぜながら箕輪城でも噂を流せ。」


 少しの間、思案した後に光秀がやる事なのだから何か考えがあっての事だろうと信頼して特に咎めることもなくスルーしてしまった。この事自体は問題にはならなかったのだが、扱いの差に問題が生じた。


 とりあえずは部隊の合流を優先するため今までと変わらない日々を過ごしていた氏政だったが深夜寝静まり始める頃に箕輪城に向かって攻めかかる一部の集団が見えた。


 「何事だ!敵襲か!!!」


 近くにあった太刀を掴み立ち上がりながら尋ねる。


 「いえ!我が軍で功を焦ったものが殿の下知を無視し突撃したようです!」


 「なんという事だ!重大な軍規違反だぞ!?彼らは軍学校には必ず通い、軍規を学んでいるはずだ…!」


 一部の者たちが命令無視の独断専行で長野業正を討ち取ろうと攻めているが状況は芳しくないようだ。相手はあっさりと門を開け城内に入れると伏兵や、殺しの間で弓矢の嵐を浴びせ着々とこちらの戦力を削っている。このまま放置しても跳ねっ返りどもが死ぬだけであるが、士気の問題や兵たちの信頼に関わるため救援に行かざるをえない。


 「源太郎!義堯に残った軍を預ける!馬鹿どもを連れ戻せと伝えよ!決して無理はせずともいい!助けるという姿勢を見せろと伝えろ!」


 その場しのぎにしかならないがやる事をやらねば。とりあえずこちらとしては撤退の支援を始め相手も深追いしてくる事はなく、場内から矢を射かけられるだけで済んだ。我々が出ていくと城門をまた固く閉ざし膠着状態が続いた。


 そのまま朝を迎え、昼頃に幸隆と光秀が軍を率いて現れた。あちらにはまだ連絡が届いていなかったようで我々の兵が損耗しているのをみて手薄なところや傷を負った兵士の穴埋めをしてくれた。


 「殿、お話は聞きました。奴らを厳罰に処す際はお任せください。二度と同じ事を行う奴らが現れぬように徹底的に行いまする。」


 光秀が般若の顔でこちらにやってくる。その後ろから顔を険しくした幸隆も続く。今回の事はそれほど許されざる行為だったのだ。我々の軍は規律を重んじ、命令に従い全体で一気呵成に攻めかかることで相手よりも連携力と自力で勝り勝利を重ねてきた。しかし、今回のようなことが起こりお咎めなしと成ればその前提が崩れてしまう。ここは厳しく行かねばならない場面だ。


 「勿論そのつもりだ。だが今回勝手をした部隊や連中は河越に戻った後集められるだけの軍を集めその前で断罪する。軍内の空気を引き締める必要がある。こんな事は二度とごめんだ。」


 「はっ、おっしゃる通りかと。彼らが逃げて野盗にでもなったら恥以外の何者でもございませぬ。彼らを見張りながら進む軍が必要かと。」


 幸隆が建設的に意見を述べてくれる。


 「そうだな、軽傷のものと他の城まで向かっていた連中から何人か選び違反者300と護衛兼見張りの兵を500つけるか。800の損失だが全体で見れば微々たるものよ。お主たちの力をあてにしているぞ。」


 「「ははっ!」」

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