第159話

 国峰城の兵士たちが死屍累々の姿でボロボロになった外郭を守っているのを眺めながら城内で慌ただしくなっているのが風魔によって伝えられた。


 「光秀様、城内にて上杉憲政が家臣を斬り殺したそうです。斬り殺した相手は降伏を唱える者だったようでそれを見た周りの家臣たちが憲政を恐れて城から脱出しようとしております。既に彼らの内部崩壊は止まらない所まで来ているかと。」


 「では、取り急ぎ彼らを保護するのだ。風魔が手引きをしてこちらに連れてこれるか?」


 「はっ、容易いことにございまする。もし許可を頂けるならば憲政がこれ以上何を言っても伝令として伝わらぬように協力者を用意する事も可能ですが。」


 「ならば頼む。ここで越後上杉に出てこられてはたまったものではない。殿も仰っておったが彼らと雌雄を決するとしても今ではない。それと、兵士たちにも噂を流せ。こちらに自然と降伏するように仕向けるのだ。」


 「ははっ!」


 音もなく消えていく風魔の忍びを頼もしく思いながら側仕えを呼び周りの兵士たちに城から一歩たりとも出さないように厳命を下す。それと同時に炊き出しを行い腹一杯になるまで飯を食わせるようにする。この匂いと雰囲気に誘われて降伏すれば良いと考えていたのだ。極限状態で酷いストレスにさらされている人間はどうしても楽な方へと向かってしまいがちになる事を光秀は今回の戦で学んだのであった。


 数日も経たないうちに国峰城の主だった将兵はこちらに降伏を申し出てきた。これを皮切りに残りの兵達も投降もしくは逃げ出し国峰城はもはや裸であった。風魔によって罠も何もないことを裏取った後、国峰城に籠っている上杉憲政を捕らえに軍勢を進めた。


 「乱取りは勿論軍規で禁止されているから言うまでもないが城のものを勝手に持ち出そうとするものは斬れ。降伏するものは丁重に扱い、民達は保護するのだ。抵抗するのならば丁重に相手をしろ。この後に及んで逃げようとするものは斬るのだ!」


 光秀は兵達が制圧した後を進み実際に臨検しながら歩みを進めていく。


 「光秀様、奥で上杉憲政を取り押さえたとのことにございまする。」


 「わかった。そちらに向かうとする。」


 崩れ落ちかけている国峰城で会うのは危険だと言うことで開けた場所に上杉憲政を連れてくるとこととなったので周りをぐるりと兵で囲み床几に座り待つ。


 「連れて参りました。」


 だらんと脱力した状態で目元も定まらない感じになった上杉憲政が猿轡を噛ませられ後ろ手に縛られて正座させられている。


 「猿轡を外してやれ。」


 「はっ。」


 「さて、上杉憲政殿 お主には我々の盟約を破り不和を齎そうとした証拠が上がった為我々が治安を維持するために攻め込まさせていただいたわけだが何か申し開くことはあるか?」


 光秀の言葉を聞いて失っていた怒りを再燃させたのであろう憲政はこちらをキッと睨むと堰を切ったように言葉を吐き出し始めた。


 「この卑しい田舎侍が!!!!元はと言えばお主らの主人である北条の倅が八幡の使いなどと嘯き南蛮の力を借りて私利私欲のために暴虐を尽くしたために乱世が酷くなったのだ!!お主らさえ!お主らさえいなければ!!!」


 周りの目が一層厳しくなる。ここにいるのは多くが貧乏な武家の家を継げないものや民出身の鍛え抜かれたもの達だ。上杉が関東において何もしていなかったこと、戦乱を収め民のことを慮っていたのはどちらかを氏政が現れる前から知っていたのだ。彼らにとっての私利私欲と北条が求めている私利私欲は違うと考えていた。それさえも軍学校における若干の思想教育によるものなのだが。


 「言いたい事は、それだけか?お主にはしっかりと裁きを受けてもらわねばならぬのでな。ここでお主を殺す事はしない。もう一度猿轡を噛ませろ!死なない程度に飯をとらせて河越城まで護送するのだ!」

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