第158話


 光秀と幸隆がそれぞれ預けられた兵力を持って城を落としに向かう準備をしている間に源太郎は氏政に呼び出されていた。


 「源太郎、お主はこれからどうしたい?父について行っても良いし俺の右腕である光秀の元に向かっても良いぞ?俺の隊は箕輪城をぐるりと囲い2人の隊がくるまで待っているだけだしな。」


 源太郎は折角出陣することができたのだから武功を上げたいはずだ。そう思ってもおかしくない。血気盛んといえば聞こえが良いが自分の立ち位置や現状を理解できていないだけだ。さて、どう答えるかな。


 「いえ、私は殿とご一緒させていただきたく。私は出陣させていただけたというだけで十分にございまするし、何より殿の側周りに御座いますれば何があっても殿から離れるわけには行きませぬ。どうかお側にいることを許していただきたく。」


 そう言って源太郎は頭を深く下げてきた。


 「よい、こちらこそ試すようなことをして悪かったな。俺たちが相対する長野業正はこの国において屈指の名将であると言っても過言ではない男だ。その男を抑えるのだから大任となるぞ。指揮をするのは勘助だがその指揮をそばで見られる位置にお主はいるのだ少しでも学び取り何か策があれば言葉にするのだ。」


 「ははっ!」


 この様子を少し離れた所で見ていた幸隆はふと顔を逸らし自分の持ち場に戻ろうとしていたがその顔には珍しく笑顔があったと兵たちの間では噂になった。


 少し時が経ち箕輪城を囲み込み始めた頃、同じ頃に光秀と幸隆もそれぞれ国峰城と沼田城を攻め始めていた。光秀が担当する国峰城では普段の攻城戦とは違う形の戦が行われていた。


 「光秀様、おっしゃられた通りに4人一組として担当制で昼夜問わずに敵に散発的な攻撃を仕掛けております。」


 「うむ、奴らが眠る隙も与えられないようにするのだ。弾を節約するために空砲を打ち出しても良い。それにそろそろ肌寒くなる季節だ。次の砲撃で全力砲撃を数回行い建物を粉々にしてきちんとした寝台を用意させるな。」


 「ははっ!」


 光秀は氏政が偶にポロリと零してしまう現代知識に関する内容から少しずつ深掘りして聞き取り実践で試していた。そしてそこで得た知識を軍学校などに寄付したりしているのだ。もちろんその知識は公開して良いものに限った話だが。検閲を受けて公開できないものは風魔によって秘蔵されている。


 「今回の予想では段々とすとれすと言うものが溜まっていき、奴らの集中力や気力というものが削がれて十全の力が発揮できなくどんな城も骨抜きになってしまうそうだが…。」


 そこからさらに数日が経った頃、昼は果敢に攻めかかられ、夜には深夜の寝静まり始める頃に火をつけられたり攻撃されたりと気もそぞろになるような頻度で攻撃された国峰城では兵たちは限界が訪れ始めていた。


 「憲政様、兵たちは昼夜を問わない北条の攻撃により立っているのもやっとのものばかりです。寝てしまう兵も現れ我々が守るこの城も既に大方が破壊されてしまっています。いつ落とされてもしょうがない状況で御座いますれば何卒降伏の方を考えていただけませぬか?」


 今まで山内上杉を支えてきた家臣が憲政に伏して願いを伝えていた。


 「それは、ならぬ!我々は言われもない事で責められておるのだぞ!それに北条の奴らに降るなど!関東管領である上杉のする事ではないわ!それよりも実虎に送った援軍要請はどうなっておるのだ!」


 「殿!我々が似たような方法を使わずに勢力を拡大したとでも言うのでしょうか!?そのようなことはございませぬ!立場が変わったのでございます!関東管領として実があるのはあちらにございまする!微力ながらも助命を嘆願申し上げまするので何卒!何と…」


 その続きの言葉を家臣は続けることができなかった。家臣の言葉を聞き入れられなくなった憲政が忠臣を殺してしまったのだ。この事はすぐに城中に広まり大惨事になっていったのである。

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