第156話


 風魔の手のもの達が下野や上野で暗躍し宇都宮の那須侵攻は決定的なものとなっていた。周りから兵糧や弾矢を買い集めているのが既にこちらに筒抜けであった。それを煽ったのも我らでもあるのだがな。宇都宮は既に内側がボロボロになっており纏めるために外敵を作る必要になっていた為、目の前にあるエサ、那須に飛びついてしまったのだ。


 那須は元々宇都宮の綻びを見抜いており天文の内訌後に白河に逃れていた芳賀高経の子芳賀高照を誘引し、宇都宮攻めの大義名分を得た。それを咎めて今回は宇都宮から侵攻を仕掛けると言う訳だ。史実では足利晴氏の命で那須討伐に赴いたようだが此度は北条を通して鎌倉公方になる予定である足利梅千代丸、改め左馬頭の地位を貰った時に元服をした足利左馬頭政晴が討伐の命令を出した。


 今回は北条は手を貸さない。それは元々我々が考えていた作戦のためでもあるが宇都宮としてはこれ以上関係をごった返したくないのだろう。内だけでも大変なのに外からの手が入れば…と言うところだろうな。こちらとしても都合がいいので物資の支援だけして後は放置だ。後詰めをすると言う名目で宇都宮裏の上野に虎高と政豊を呼び寄せた。


 これを使って下野を一気に取るのだ。それとは別に勘助に任せた軍を信濃よりの上野に待機させている。下野に侵攻し始めたと同時に山内上杉に攻め込む予定だ。何故か壬生の家宅から見つかった山内上杉の文書がたまたま我々に見つかり、我々の盟約である不戦を反故にするよう仕向けた証拠が出てくるのだ。我々は関東を纏める鎌倉公方になる予定の足利左馬頭政晴から命を受けて関東管領として山内上杉を討伐しに行くのだ。


 「さて、戦を始めるとしようか。源太郎!幸隆と光秀を呼べ!平井城に向かうぞ!お主も俺の馬廻りとしてついてくるのだぞ!」


 勿論戦をさせるつもりなど毛頭ないが源太郎にはこの前劣等感のようなものを感じさせてしまったからなここですこし下駄を履かせるくらい問題はないだろう。


 「はっ!直ちに!」


 城内が慌ただしくなる。勿論俺たちだけで戦場に赴くわけにも行かないのでとも周りに500程の兵をつけて全て騎兵で勘助のところまで向かうのだ。武具は最近揃えた南蛮式の鎧を着ていく。移動に邪魔な為着いてから着ればいいではないかと思ったが風魔がそれを止めた。いつ何時敵から暗殺されるか分からないのだから出来るだけ危険は減らさなければならないと。当たり前のことだったので何も言えない。


 「準備ができたものから正門に集まるのだ!慌てずとも良いが急げよ!光秀はどうしている??」


 周りのもの達に鎧を着せられながら周りの報告を聞いていく。最初のうちは慌ただしくて慣れなかったが今となっては当たり前のことになっている。自分がこの時代に慣れているのがわかるのだ。


 「光秀様は既に正門で供回りのもの達を纏めております。父はまだ準備中との事です。」


 鎧を着た源太郎がそばに着く。心なしか少し表情が固くなっており紅潮しているのがよくわかる。


 「そう緊張せずともいい。今回前線に出張って戦うことはないだろうからな。それよりもお主の糧とする為に今回の戦から学び取れるものは全て吸収できるようによく観察し考えるのだぞ。」


 用意が終わったのでそのまま外に向かっていき馬にまたがる。最近11歳になって体が急成長した。身長も165センチほどになり毎日鍛錬しているおかげか人並み以上の筋肉は付いている。今までは誰かの馬に乗せてもらったが今回は自分で馬をあやつる。


 「遅れてしまい申し訳ありませんでした。しかし、急ぎ確認せねばならないことがございましたのでその報告を。」


 「わかった。面をあげよ、そう頭を下げていれば声が聞き取りづらいぞ?俺は責めるつもりは毛頭ない。それよりもその報告とやらは向かいながらでも聞けるものなのか?」


 「はっ、大丈夫かと。」


 「では出陣だ!」


 

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