第154話

 小太郎と義堯、秀吉が集まってこれからの事について話すために退出することを許可して評定を終えようとした時、ふと見えた源太郎が俯いていたように見えたので少し声をかけてみた。


 「源太郎よ、お主にだけ仕事が回ってこずに不満かな?」


 この言い方はずるいと思うが実際に憮然とした評定をしているのだからそう捉えられてしまう。幸隆は息子を後ろからじっと見つめている。周りのもの達は気を利かせてこの場から出て行ってくれているようだ。


 「…いえ、そんなことはございませぬ。」


 数瞬の後、源太郎は伏し目がちに答えた。


 「はっはっはっ、なら表情をしっかりと隠すのだな。それでは相手に何を考えているかすぐに読み取られて不利になるぞ?」


 そのちょっとした仕草や子供っぽさに少し笑いが漏れてしまった。


 「私はやはりあの二人よりも劣っているのでしょうか…?」


 源太郎が不安そうにこちらを見つめている。声をかけようとすると後ろから幸隆が近づき息子の源太郎を殴り飛ばした。


 「この馬鹿者が!!お主は元服しておらぬとは言え殿に仕えているのだぞ!そのような弱気を見せてどうする!悔しいならば普段の仕事ぶりをより良くしろ!その時の機会や立場によって任せられることは様々だ!そして、その機会を与えてもらうために日々頑張っていくのだぞ!それに、今の仕事に不満があるならばお主に家督を継がせることはないと思え、既に甘えられる時期は過ぎているのだぞ。」


 そのまま幸隆はこちらを向くと深く頭を下げた。


 「この度は息子の不始末、どうお詫びしてよろしいか分かりませぬ。何卒許しては頂けませぬでしょうか?」


 「幸隆、俺はそもそも気にしてはおらぬぞ。俺の聞き方も意地が悪かったからな。それに幸隆 義堯 光秀や他のもの達が鎬を削りながらも切磋琢磨する様に、源太郎にとって次郎法師や秀吉は仲間内でも好敵手なのであろう。その二人においていかれるとなれば尚更仕方がない部分もある。だから頭を上げてくれ。そして源太郎よ、こちらにくるのだ。」


 幸隆が頭を上げるのをみて源太郎もそばに寄ってきて幸隆の隣に座る。


 「今回源太郎に他の大きな仕事を任せた場合俺の小姓達の仕事をする奴が居なくなってしまうのだ。これからは秀吉と次郎法師の仕事の分も働いてもらうことになるのだ。そしてそれを任せられるのは源太郎しかいないと思っている。決してお主を軽んじているわけではないのだ、必ずお主にも機会がやってくる。それまで励めよ。」


 源太郎は俺の言葉を聞いてバッと頭を下げた。


 「畏まりました!この度は無礼な振る舞いをして誠に申し訳ございませぬ!」


 二人を下がらせて今日の仕事を終えたので自室でゆったりとしていると部屋に俺宛の手紙が置いてあったので幾つか目を通していると父からの手紙があった。


 そこには織田弾正忠家が斯波家から尾張守を任されたことで尾張の統一に邁進していること。斯波家は御輿としての役割を理解しているから口出しはしてこないが朝廷が幕府から任された尾張守護である斯波家ではなく弾正忠家に尾張守を任官したいと言う意向を受け取ったことに不満がある事、しかし実権はこの時代守護の方にあるため特に問題となっていないらしい。


 守護代である大和守家や伊勢守家の下に着く清洲三奉行の弾正忠家が頭ひとつここで抜けてきて守護代と並ぶようになってきた事、北条との貿易でそこからさらにひとつ頭が抜けて現在は弾正忠家が尾張の実質的支配者になるらしい。


 俺としては緩やかに統合したり国人衆達のまとめ役というよりは弾正忠家で統一してほしいので何か一手欲しくなるところだな。これに関して信長に連絡でも取ってみるか。

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