第155話
三河からやってきた人員達は女子供が多く、織田に匿われている竹千代、後の徳川家康に仕えようとそちら側に向かっていた人物も多かった為こちらにやってきた人員は限られていた。だが、その中でも有力な人間が数人来てくれていてこちらとしては嬉しい限りだ。
現在11才の本多正信 21歳の酒井忠次 19歳の高力清長は軍学校に入れ教育を終えた後にそれぞれの希望するところに配属する予定だ。正信には俺の小姓組に加わって同世代のメンバーとして頑張って欲しい。他の二人は言わずもがな名将だ。彼らがきてくれたことには驚きだがやはり家族丸ごと引き受けた上に支援も大きくされる事が魅力的だったようだ。また正信が引き連れてきた一族と子供達の中には生まれたばかりの本多忠勝と榊原康政がいたため密かにテンションが上がったものである。
現地で協力してくれている服部半蔵は現在の三河の拠点をそのままに俺の傘下として働いてくれるそうだ。これによって少し遠く手が届きづらかった美濃 尾張 信濃 三河に大きな諜報網拠点ができた。現在は風魔の元で北条として連絡が滞りなく行われるように北条流を仕込んでいる最中だそうだ。特に衝突することもなく上手くやれていると小太郎から連絡が来ておりこちらとしても一安心という所だった。
「失礼致しまする。井伊次郎法師入らさせていただきます。」
「ん、よく来てくれたな。まあ楽にしてくれ。三河のもの達が来て大変だろうが何か困ったことや彼らからの要望みたいなものは出ているだろうか?」
特に評定などで話すようなことでもなかったので自室で仕事をしている場所に呼んで軽い雑談のようなノリで話しかける。
「はっ、彼らは三河での今川からの扱いよりも大切にされている。元々の暮らしよりも過ごしやすいと喜んでおります。我々も一安心というところです。困ったことというか、今彼らは戸籍などの手続きで戸惑っておりこちらに慣れるまで時間がかりそうという事と何もすることがなく働きたいというもの達が数多く出てきております。」
「なるほどな。そこは時間が解決してくれるだろう。働きたいという事だがこちらに来ているのは女子供や老人が多い印象があるが彼らが望んでいるのならば売り子や手作業で行える事など回すことができるがどうだ?」
「はっ、ありがたい限りにございまする。彼らにもそう伝えまする。…私的な相談なのですがこちらに逃げてきた親族から聞いたところ井伊の生き残りは私だけになってしまったようです。家督を継ぐことになりまするのでよければ許可を頂ければと…。」
結局親族はこちら側にやってこれたが井伊家を継げるような人はもう次郎法師しか残っていなかった。俺が許可を与えるという事は彼女の婿や元服の用意など後見をすることにもなるだろう。それに、今は忙しいためそこまで気にしてないように見えるがやはり悲しいのだろう伏し目がちになっている。
「勿論だ。俺が井伊家を再興させてやる。土地は与えられないし三河に戻れるかも分からないがそれでも良いだろうか?」
「は、はっ…ありがたき幸せにございまする。」
「…すまないな。お前のためになればと思って三河のまとめ役を頼んだがつらくてしんどい思いをさせている。次郎法師の負担に、経歴に傷がつかないようにゆっくりさせることもできるが大丈夫か?」
そういうと先ほどまでは下を向いていた次郎法師がバッと頭を上げてこちらの方を向いた。
「勿論にございまする!私は、私は氏政様のお役に立てます!それが私の喜びにございますればどうか、その役割を奪わないでくださいませ。」
「そのようなつもりはなかった。すまないな。そういえば婿を取ることになると思うのだが希望ができたら伝えてくれ。出来るだけ次郎法師の望む相手とくっつけよう。」
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