第149話

 あの後何かを言おうとした定実様は体調が優れないようで医師に任せて我々は退出することになった。そのまま別室に移動し景虎派のもの達で話し合いをしながら定実様の容体が安定するのを待つ。このまま再度話すと言う形になることはないだろうが心配なのもある。


 「景虎様はこれからどのようにされるおつもりで…?定実様が申していた通り武田の勢力拡大は目を見張るものがあります。」


 景虎は直江実綱からの質問に対してどう答えるのだろうと周りの配下達も耳を澄ませる。


 「…武田は西進を続けたがこれ以上は進出しないだろう。彼らは山国、どうしても海に面する土地が欲しいのだ。今は今川、北条の支援で成り立っているが信玄という男はそれをしっかりと理解した上だ。つまり、奴が次に目指すのは日本海に面した越後 越中のいずれかとなる。」


 周りもなるほど、そうだな。と頷きながら話を聞いている。


 「奴は必要となれば父ですら国から追い出すのだ。今川、北条にも牙を剥く可能性は大いにある。北条はちょっとやそっとでは動かないだろうが今川は違う。彼らは北条に負け、織田で挽回したようだがまだまだ安定しているとは言い難いのだ。何か一つ機会があればきっと信玄はその隙を見逃さない。そのために南信をとり飛騨まで手を入れたのだ。」


 「ですが、彼らは婚姻同盟を結んでおるのですぞ?それを破れば武田はこれから誰にも信用されなくなりまする。そこまでやるでしょうか?」


 山吉行盛が不思議そうに尋ねる。


 「やる。奴はそう言う男なのだ。しかと覚えておけ、奴は非道 極悪 残忍 冷酷な虎なのだ。少しでも甘い判断をすればこちらが食われるぞ。」


 「ははっ!」


 「…だが、奴は良くやっているのも事実だ。あのような海もなく山ばかりで米も取れない。貧しい国である甲斐1国の国人集代表から信濃の半国を手に入れた大名になったのだ。それだけでも奴を侮れない理由になるだろう。」


 「では、やはり対武田に向けて動く事になりますかな?」


 「ああ、だが我らから手をかけることはない。北信の国人達から救援を求められた時と越中が武田に襲われそうになった時に動けば良いのだ。それよりも越後の内部を纏めること、更には定実様が申していた山内上杉がこちらに支援を求めてきた時にどうするのかを対策しておくべきだな。」


 「対武田の姿勢を取りつつも我らからは動かない…と?」


 「そうだ、我々の私利私欲のために兵を動かし国を取ったとすれば周りから警戒されその行先は対我らへの包囲網となって帰ってくる。それは北条がつい最近に証明した事だ。我々は北条のように新兵器も無い、大義名分の元動く事で周りからの批判を抑え自然と我々に付き従うようにすればよいのだ。我々はまだまだ先が長い、焦らずにゆるりと参ろうではないか。」


 直江が景虎の意を汲み取り会議の流れを進める。 


 「なるほど、良くわかりました。では、まずは北から順に話し合いましょう。本庄氏は今のところ付き従っており、隣接する大宝寺氏はこちらを頼ってきております。ですので大きな混乱が起きるとは考え辛いです。そのままでよろしいかと。


 次は蘆名です。会津は現在蘆名の元に纏まっており我々の本城 春日山城から見てもかなりの距離があり攻めるにしろ、守るにしろ手がかかります。しかし、彼らは東山道に目を向けておりこちらに対しては特に行動を起こすつもりはないようです。我々も彼らに手を出すには武田 北条と対処しなければならない障壁があるためこのまま付かず離れずの関係でよろしいのではないかと考えます。


 さて、北信についてですがこちらは面白い報告がございます。巧みにわからないようになっていましたが北条が武具と食糧の支援を行っているようです。北条は武田と友好的に見せながらも彼らに対して全くと言っていいほど協力はしておりませぬ。」

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