第147話

 「では!上乃段城へとまずは向かう!進め!」


 昌景は兄の虎昌から渡された700の軍を眺め、道先案内人に従いながら進む。普段はこんな大軍を率いる機会はない為不思議な高揚感を味わっていた。はやる気持ちを抑えられずに前の場所まで出てきてしまった昌景は目の前に見えてきた城にまずは交渉人を送った。


 返答は開門には答えられないと言うものであったが昌景は落ち込む様子は全くなく、寧ろ嬉しそうな様子であった。得意としている槍を高らかに掲げた。


 「城にこもって怯えている木曽の弱兵を打ち破るのだ!武田の赤備えの力!見せつけろ!!!」


 うおおおお!!!!


 兵達の雄叫びが空気を震わせ熱が上がるような気分を昌景は味わいながら先頭を突き進んでいく。敵の兵は槍を構えて待ち構えているが昌景が槍を振るうごとに敵の列が乱れ、敵が血を噴き出して倒れていく。


 「我は飯富虎昌が弟昌景!死を恐れない者はかかってこい!武器をおき逃げる者は追わぬ!さっさとこの場を離れるがいい!」


 赤備えを率いる昌景の立ち姿は敵に何倍も背丈が大きく見えていた。普段農民をしている兵達はカランッ カランッと次々に武器を手から落として背を見せてその場を離れ始めていた。一旦瓦解した軍は立て直すことが難しく組織だった抵抗が不可能になりなし崩し的に上乃段城は落ちた。


 昌景はそのまま城を攻めていた兵を放置して残った元気が有り余っている兵を率いて次の城、次の城と迅速に城を落として行ったのだ。


〜〜〜


 武田信玄


 軍議の場で穴山や小田山、信繁などがいる中で信玄が反対側に馬場信房が陣を敷いていると報告を受け、実際に木曽義康が慌てふためいている様子を何となく感じ取っていると伝令の兵がやってきていた。


 「報告!虎昌殿からの書状にございます!」


 「うむ、読もう。」


 信玄が書状を開いて読むと周りのみんなに伝え始めた。


 「皆のもの!飯富虎昌とその弟の昌景が鳥居峠の後ろにある木曽福島城や上乃段城、小丸山城を落として、それに崩落城を攻めているそうだ!流石の赤備えよな!それに弟の昌景が主導して木曽福島以外の城を攻めたそうだ、我らも負けては居れぬぞ!」


 「そうでございますな!木曽義康に対して降伏を勧告いたしますか?それとも攻め滅ぼしてしまいましょうか?」


 「そうだな、降伏するならば国外追放、もしくは我らに仕えるか好きな方を選ばせてやれ。空いた木曽は今回活躍した飯富虎昌と昌景に任せるとしようか。よし!誰か木曽義康に勧告を進めてこい!」


 「はっ!直ぐに使者を選んで送り込みます!」


 木曽を飯富虎昌に任せるという声によって他の周りの将達に功を焦る表情や自分も活躍してやるという気概が溢れた。だが、そこに水を刺すように木曽義康が降伏を受け入れ国外追放を受け入れたという伝令が入ってきた。


 「わかった。では軍を解散させて鳥居峠を制圧するとしよう。皆のものには活躍の場が用意できなくて申し訳ないが今回の戦はここまでだ。」


 「「ははっ!!」」


 約束通りに木曽義康は殺されることはなく木曽を追放になった。義康はまず飛騨国の三木を頼って一族を率いて山を横断していくことにしたようであった。戦が終わった事で居城に戻る前に春日城に帰り論功行賞を行った。


「残った木曽の領土は宣言通りに飯富虎昌と昌景に任せることにする。また、昌景は信虎の時代から途絶えていた山県の姓を引き継ぐことを許す。これからもその名に恥じぬように働いてみせよ!」


 「また、南信で東美濃と隣接している飯田村以下、阿智村 下條村 泰阜村を馬場信房に任せることにした。お主達にはこれから協力して頑張って貰いたい。」


 これによって飯富虎昌を中心に南信を纏めて東美濃と三河に対する障壁とする予定であった。

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