第146話
木曽が鳥居峠で信玄たちに挟み撃ちにされている頃、飯富虎昌が木曽福島城の攻城戦を開始していた。木曽福島城は木曽谷の中央部、木曽川右岸の丘陵に築かれた山城で城縄張りは南北に細長い丘陵稜線を堀で仕切って郭に加工した連郭構造で構築され、稜線の繋がる東・西側稜線を大規模な堀切で分断して城を独立させていた。
これによって虎昌は片方の部隊を分けて攻略するのではなく1000人をまとめて片方の城に詰めかけさせようとしたが、規模は主郭から三の郭までの各郭を分断した堀は大規模なもので、主郭・二の郭の南側には虎口受けと思われる小郭が敷設されていた為、やむを得なく片方を昌景に任せて同時に攻略することにした。
「昌景、お主に400を預ける為もう片方の城を攻略してこい。決して無理はせずに相手の援軍を防ぐのだ。我はその間にさっさと片付けてしまう。そうすればお主が攻め立てる方の城も戦意が喪失するだろうよ。」
「はっ!お任せあれ!」
昌景は次の城攻めのことを考えてむりな攻めは行わないことを言われた通りにこなそうと
考えたが、やはり功を上げたい気持ちや自分の力を示したい気持ちもあり少し迷っていた。
「お主の武勇は兄である我がよく分かっておる。落ち着け。」
「はっ…」
虎昌は苦笑しながら昌景を宥めて軍を指揮する。
また、主郭・二の郭の周囲には帯郭が敷設され、単発的な竪堀が不規則に穿たれて上位郭を防御する構造になっており全体的に小規模な城砦だが要害性の高い高所に位置しており木曽義康はこの城があったからこそ鳥居峠にも布陣できたといえる。
「では、攻めかかるとしようか!」
昌景の方の軍が声を上げて攻めかかっているのを遠くに聞きながら虎昌も攻めかかりはじめる。山城で要害と言えども敵は城の中に篭っており鳥居峠のように布陣しているわけではない。しかも、義康本人は出陣している為留守番をしている兵の数も少なく十全な能力を木曽福島城は発揮できていなかった。
「前面の盾隊に続いてゆっくりと進むのだ!頭上からの矢に注意しておけ!怪我をしたものはその場で立ち止まらずに仲間の影に入りながら進むのだ!」
頭上からの矢の攻撃はどうしても防ぎきれなかったが数の暴力で一方的に押し込み切る。虎口となっている道を制圧し城門の破壊に取り掛かる頃にはこちらの弓が届く範囲にあり、相手も抵抗する事が厳しくなっていた。
守りを任されていた武将はそれを察知して自分の首を引き換えに城の兵達の命を嘆願する事はなく、配下に降るから許しを請うた。虎昌はその場で判断することなく崩落城までの道先案内人として同行させることにした。
「昌景、今からはお主がこの部隊を率いるのだ。我はこの城を300の兵で制圧し直ぐに後方に連絡を入れよう。安心して残りの城を制圧してこい。」
「ありがとうございます!行って参ります!兄上!」
弟の嬉しそうなはしゃぎようを見ながら部隊を任せて木曽福島城を出立して崩落城へと向かう昌景を見送った。昌景は上乃段城、小丸山城、崩落城と次々に攻め落として行った。勿論、城を任されたものが降伏してそれを見た兵達の指揮が下がっていたのもあったが、僅かな犠牲で数々の城を落とした昌景は今回の戦で名を挙げることになった。いつでも先頭を駆け抜けて敵を圧倒し畏怖される姿に槍弾正と呼ばれ始めたのだった。
「さて、この手紙を早いうちに御屋形様に届けてくれるか?」
「はっ!必ずやこの吉報をお伝えして見せます!」
虎昌は伝令役に昌景の活躍を書き記し鳥居峠で睨み合いを続けているだろう御屋形様である武田信玄へと書状を渡した。奇しくも、その時は義康が信房の軍が背後に布陣していることを知った直後だった。
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