第141話
京都 近衛前久
「北条の使者がやってきたでおじゃるか?」
朝廷に毎年の季節ごとの貢物を持ってきたのだろうと思い側使えの話を聞くのは2年前に内大臣に就任した近衛家 当主の 近衛前久であった。
「はっ、何やらお見せして欲しい手紙があるとかでこちらに用意しておりますが読みますか?」
「勿論でおじゃる。こちらへ持ってきてくれ。」
中身を開くと丁寧な挨拶が書き連ねてあり本題がその後にある。今川が三河守を欲しておりその手助けを頼まれたから一応連絡しておくとの事ともし任官するのであれば織田弾正忠信秀殿か信長殿に尾張守を与えて欲しいとの事。それと個人的に北条で保護している関東公方の生き残りである梅千代王丸に足利を継がせるために左馬頭を任官して欲しい。そのための費用は惜しまないとの事。しかし、主上は私利私欲で官位を買収する形は嫌うことをわかっているので無理はしないで欲しい。
「なるほどのう。これはワシにしか任せられぬ訳だな…。あい、わかった。使者殿にはワシが手紙の内容をしっかりと理解して行動に移すと伝えておいてもらえるかのう?」
「はっ!」
前久はそのまま輿にのり内裏にある紫宸殿へと向かう。現在の京都における朝廷は荒廃しており元々あった大内裏はほとんどがなくなっていた。元は政務を行っていた大極殿がないため天皇の私室と言っていい内裏で政務が行われているのだ。
「これでも北条の倅のおかげでマシになった方でおじゃるが…」
北条の支援のおかげで毎日の生活に彩りや楽しみができた。朝廷に出仕する公家達はほとんどが帝からの下賜という形で日常品の支援をして貰っている。北条が直接するのではなく帝が下賜する分も含めて朝廷に献上しているのは帝も理解しておられる。その感謝の証として伊豆守の任官をしたのだ。
そして北条は官位が欲しいがためにこのようなことをしている訳ではないと皆に示したがっている。ここをうまく調整するのがワシの腕の見せ所ぞな。そんな事を考えながら前久はいつもの道を通って帝に拝謁する。
「今日はどうしたのだ?」
「はっ、今回も北条からの貢物が海からやってまいりましたのでそのご連絡に参りました次第でおじゃります。」
「そうか…。北条は毎回生活に必要なものや特産品など朝廷の事を考えた支援をしてくれておる。困窮している我々にとってどれほど有難いことか…。何もできない朕が嫌になる。」
「そのようなことは…!帝が居られまするからこそ我々は付いていけるのです…。お話しを変えて申し訳ないでおじゃりますが北条が保護しておりまする足利の遺児に足利の家職である左馬頭を任官して欲しいと願い出ておりますが…。」
「なるほどのう。関東では北条に対して周辺国による大規模な包囲網が組まれたと聞いておったがそれを打ち破ったのであったな?」
「はっ、北条は昔から民を重んじ彼らを守り豊かにするために戦をして関東の悪政から解き放っておりますれば、それに反発するものも出てきたのでしょう。しかし!彼らは私利私欲のために戦っているのではないと言う事をどうか理解して頂きたく…」
「わかっておる。北条の倅が八幡神の御使であり民のために尽力しておることはな。それに、実際、京の都にも北条の豊かさが今世の極楽浄土と呼ばれるほどのものだと伝わってきておる。彼らが民をどれだけ大切にしてるかはよく分かっておるのだ。それに元々足利の遺児に左馬頭を与えることはなにも不満はない。そう心配するでないぞ。」
「ははっ、これは失礼いたしました。北条は今 伊豆 相模 武蔵 上総 下総 安房 上野と下野の一部を領しその豊かさを広げられているようです。」
「朕は都におりながら何もできては居らぬ。今の足利も何もしては居らぬ。そのような中で関東での朗報を聞けるのは何とも嬉しいことだ。」
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