第142話

 「それと、話は変わりますが任官について今川が三河守を望んでいるようです。」


 「ふむ、今川治部大輔は北条に攻め込んだ幕府に連なるものだったのう。今回は北条に攻め込めぬと見て三河に攻め入ったのか…。三河の民達は被害に遭ってないと良いのだが…」


 帝は悲痛そうな顔をして民のことを考えている。ただひたすらに民のことだけを考えてその気持ちを向けられる後奈良天皇には頭が上がらない。


 「はっ、北条は甲斐の武田と今川と同盟を結ぶことで北条の内政のやり方や米などを民達に極めて安く利益のない中で配っているようです。その効果は表れているようで今川や武田の民達は以前に比べて飢に苦しむ事はなくなっているようでおじゃりまする。」


 「なんと…!北条は真に民のことを考えておるのだな…。そうか、なれば今川も今は民の事を考えておるのか…?」


 こちらを伺うようにじっと見ておられる。


 「はっ、それを自覚させるためにも帝からの言葉を添えて任官をすれば今川もきっと…。それに合わせて北条の倅が縁を結んでいる織田弾正忠家に尾張守を任せる事で今川と織田が争わないようにするのは如何でしょうか。

 実際織田も長い事朝廷に金銭を献上しておりますればそろそろ報いてもよろしいのではないでしょうか。」


 「なるほどのう、だが織田の倅は大うつけとして有名じゃぞう?大丈夫かのう。」


 「北条 今川 織田と商人達は行き来しており船も織田の領する熱田に寄ることも考えますれば尾張国の安定がそのまま東海道の安定に繋がるのではないのでしょうか…。それに今川が野心を持って侵攻しようにも北条と織田に挟まれておりますれば下手な事はできないと思われます…。」


 「うむ、では織田にも朕からの言葉を伝え三国の和を持って北条のように民を重んじるように伝えるとしようぞ。」


 「ははっ!」


〜〜〜


 織田信秀 信長


 今日の朝方に朝廷からの使者がやってきて事前に北条から相談を受けていた尾張守の件について連絡を受けた。北条が全額を負担するためこれを受け取って欲しいとの事だ。北条からの意図としては今川に対しては同盟国である為仕方がなく三河守就任を手伝わなければいけない件、しかし織田を重視していることも事実であるため受け取って欲しいとの事だ。お飾りの斯波に与えてそれを織田弾正忠家に任せるという形で今回は就任をした。


 「尾張守就任おめでとうございまする。」


 信長が丁寧な挨拶を父信秀に対してする。史実では家臣にも見限られかねないほど奔放だった信長も、必要な事だと理解して周りの目にとって自分がどう映るかを考えながら行動できるように今世ではなっていた。


 「ああ、次は其方が継ぐことになるのだしっかりと精進せよ。」


 「ははっ!」


 信秀にとっては自分の跡を継ぐのは信長しかあり得ないと考えていた。しかし、継承権に関与して戦乱を起こそうとしているものがいるのもまた事実であった。


 「また、帝からの勅ではないが伊豆守 三河守 尾張守の和を持って三国の安定をと仰っておる。これによって下手に今川とは戦が起きることがないだろう。」


 これは破った側が帝を無視した、つまり朝敵となる可能性が高いからである。


 「これによって我々は東を気にしなくて良くなった。そして北は同盟を結んでいる。我々はこれから尾張の統一と長島の掃除を行うぞ!」


 「「ははっ!」」


 尾張守である事を理由に伊勢守家と大和守家に頭を下げさせる予定だ。それに従うならば良し、従わないならば攻め滅ぼすまでである。


 「この書状を伊勢守家と大和守家に持っていけ!お主らは軍の用意をするのだ!信長の揃えた常備兵の力見せてもらうぞ!」


 「はっ!」


〜〜〜


 今川治部大輔義元


 「ちと、めんどくさいことになったのう。」


 「三河守を手に入れた代わりに重石をつけられましたのう。」


 雪斎と義元はこれからの今川について話をしていた。


 「うむ、なにか変事でも起こらぬ限り我々が東にも西にも拡張ができないことになってしまった。」


 「三河の安定がしっかりとしていない今です。まずは領国の基盤をしっかりと整えていつでも再侵攻できるように備えるべきかと。」


 「そうだな。できる事を一つずつこなしていこう。そういえば武田が南信を手に入れるために牽制として犬居に兵を集めて欲しいと言っていたな。」


 「はい、ですので南信を狙うしか無くなった今川が準備をしているという類の噂とともに実際に兵を集めておりまする。」


 「わかった。よろしく頼む。」

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